変ラノに投票するぜい!


“変”とは、特定の基準点からズレたところにあるなにものかを発見した時に僕らが味わう感覚であり、逸脱の喜びであり、ある種のセンスオブワンダー、あるいはある種の萌えであるように思うわけです。そして僕はこの感覚がわりに好きで、変なものを見つけると街角で猫ちゃんを見かけたときのように気分が高揚するのです。
“変”にはまた別種の魅力もあります。奇矯なものには位置エネルギーがあるのです。“変”を消化し“理解”へ至るとき、そこにはコンパクトに折りたたまれたある種の論理=物語が生まれ、それが「笑える」とか「面白い」とか、何らかの形で僕らの心をムーブさせるのです。
前者は個性や属性みたいななんらかの輪郭に対するものですから“変萌え”、後者は2点間を加速する感情であるので“変燃え”と呼んでもいいかもわかりません。
さて笑いと言うものはとても素朴な感情です。人が笑うのはしばしば笑う以外にどうしようもない時です。“変”を読み解き理解していった先に、窮極的に理解不能なものが残ることがあります。“変萌え”するならそれをただ愛でていればよいのですが、“変燃え”するのでしたらそれはもう笑う以外に消化の手立てがありません。また、わざわざ“変”を読み解く手間をかけずに一足飛びで笑いに飛びついたって別に問題ありません。ですから変なものは笑えるものが多いです。
ただし笑いとはあくまで軽度の異常性に対する人間の反応です。異常性が重大なものとなるともはや笑い事ではなくなります。あるいは理解不能になります。現実における人間の重度の異常性に対する反応はしばしば恐怖ですが、創作物には距離をおくことができますので、「意味がわからないのでつまらない」と言う評価を下すか、あるいはもう単純に視界に入らなくなります。この辺の観点から言いますと、意味不明を読み解くことで“変”を取り出し続けるテニプリ論壇の人たちは、とても有意な仕事です。
さてしかし、同じギャグを繰り返すといつしかマンネリと化して笑えなくなるように、同じ“変”を眺め続けたり、あるいは理解しきってしまったりすると、そこに“変”を感じることが出来なくなってしまいます。僕としてはその“変”を“変”と思ったときの記憶や、自分の中にある「世間の常識」をもとにして、ツッコミ専用の副人格をつくり、そいつに“変”を保障するための基準点を確保させていますが、中にはそういうことが苦手な方もおられるかも知れず、ですので“変”を魅力のひとつとする作品には、読者を“変”になれさせないための工夫が求められるでしょうね。


さてさて。人を“変”に慣れさせないためにはどうしたらよいのでしょか。
前提条件だけ“変”で後は普通に異能バトルをしているようではいけませんよね。そんなのは予告だけ面白い映画のようなものです。してみると、『バッカーノ』は手を変え品を変えよく「なんだこりゃ?」「なんでこんなことに?」「ええええええ!?」を提供してくれているように思います。継続は力がなきゃ出来ません。稀有なことです。
『バッカーノ』はいまのところ1930年代のアメリカをメインの舞台としており、何がなんだかわからないままテンションだけがむやみに上がり、しっちゃかめっちゃかになりながらもひとところに収束して最後お祭りと化して締めるタイプの群像劇です。
エアマスターとかネウロとかGロボみたいなビックリドッキリ漫画を好きな人に薦められるラノベって、成田良悟古橋秀之と『リアルバウトハイスクール』と『武林クロスロード』と……意外と思いつくなあ。でもまあそういうのが好きな人には非常にオススメの作品です。
あとこないだ出たリアルバウトの外伝はすごくよかった!リアルバウトのダメなところが避けられていいところが引き出されています。独立性高いのでこれ一冊だけでオススメ。変ラノぽいとこと言うと、やはし「ヒトコプター」は最高ですよねー。バトルにならない一方的な暴力であんなに無茶なのは他じゃなかなか見れないですよ。


手を変え品を変えと言うのであれば、『食卓にビールを』も。濃い口のSFとのほほんな日常が主人公を介して直で結びついてんですけど、そのコンセプトというか“変”の方向性だけならそんなに凄く“変”てわけではないのだけれど、でもそれが1巻ごとじゃなくて短編集ですからね。密度が濃いい。そして女の子がかわいい。
『ドアーズ』も『食卓にビールを』と読後感が似てます。歪んでしまった自分の世界をもとに戻すためいろんな異世界を探訪する話で、『ビール』よりもさらに雰囲気がゆるい。妹キングとか。
でもビールとドアーズだとヒロインの魅力でビールが勝ちかな。ドアーズの子もかわいいんだけど、でもSFと日常という両立しづらい要素を結びつけるべく、無理を一手に引き受けて存在する“物理オタの美少女女子高生小説家幼な妻”にはかなわんでしょう。属性多すぎ。しかもイラストがまたスペリオルかわいいんだ。4巻表紙とかさ。ほんとさ。もうね!

食卓にビールを〈4〉 (富士見ミステリー文庫)

食卓にビールを〈4〉 (富士見ミステリー文庫)



女の子の話をすると。理論的に言って変ラノは女の子がかわいい。なぜかと言うとあえて主流を狙わぬ変ラノなれば、ヒロインもまた作者の趣味全開バリバリであるか、逆に世間に対し出来る範囲で精一杯のアピールすべく飾り立てられているか、なんにせよその描写には力が入ること相違無しと思われるからである。
作者の趣味、女の子がかわいい、と来ると頭に浮かぶのは『化物語』でしょうか。あれも女の子はやたらかわいいし、舞台は学園異能や萌えコメのフォーマットに忠実に作られてるのにイベントとかむしろどうでもよくてずーっとダベりどうしなあたりが“変”といやそうかも知らんです。でもそれならむしろ『TOY JOY POP』をあげるべきでしょね。魅力的な女の子がいっぱい出てきて、ダベりまくってて、そしてむやみにヴァイオレンスでヤンデレで後味が悪い。『化物語』で女の子達が抱えていたのは心の問題の比喩としての怪異だったけど、『TOY JOY POP』の女の子達の背後にあるのは街に飛び交う都市伝説でした。特にトイジョイの格闘っ娘がめちゃ好みです。日に焼けて水気の抜けた皮膚の上に浮かぶ目元の小じわとかまで想像してしまうわけですよ。いやこれはただの僕のフェチですが。それからヤンデレも出て来ますよ!
あと銀カレの6巻もそうかな。なんで俺はサブキャラのこんなきっつい女二人のきっつい半生をふりかえってんのやろ?なんでこんなことに?でもその二人ともが凄く魅力的です。「べつに“変”なワケじゃない。ガチなだけだ」と僕のセルフツッコミ副人格が言いよるのですが、そしてそれは確かにそのとおりなのですが、それがラノベとしては“変”と言うに過ぎないのだとしても、ガチすぎるゆえに“変”に至る瞬間と言うものはたいへん価値の高い稀有なものだと思います。

化物語(上) (講談社BOX)

化物語(上) (講談社BOX)

TOY  JOY  POP (HJ文庫)

TOY JOY POP (HJ文庫)


それから作者が“変”だと作品全体が歪みっぱなしになるのでこれも変が持続しやすい。もちろん筆頭は中村九郎なのだけれど、ただこの作者くらいの逸脱レベルになると読者側から意識的にシンクロしなければ楽しめないため、かえって「単に天才なだけで“変”なワケではないよ!」みたいな感想を覚えてしまいがち。なわけで、むしろオススメしたいのは『暗闇にヤギを探して』です。普段は作者の独特さが抑制されているのですが、しかしその中にもどうしたって漏れ出てくる不穏な空気がある。全3巻なんだけど特に最終巻は、まあ打ち切りのせいもあるのかもわかりませんけど密度が高くて構成がアクロバティックでねー。作者の武器であるいきなり幻想的なシーンも大変に美しくて。「星落とし姫」とか。それに女の子一人称の少女小説としても面白いんだ。氷室冴子とか引き合いに出したいくらい面白い。まじでまじで。あと作者の次回作予定が『12人の優しいお母さん(仮)』である点にも注目。
そのほかで作者が変てタイプで最近読んだのと言うと『ふわふわの兄貴』とか『ヘブンリー』とかだろか。『ふわふわ』はゆるいだけって言えばそのとおりなんだけど、でもヒロインの可愛さとか特筆ものなので。『ヘブンリー』は『ちょー』や『マルタ・サギー』の野梨原花南の作品。完成度低めなんですけどその分センスがダダ漏れになってる。ダダ漏れに付き合いたいほど魅力的な作家はそうはいないけど、でも野梨原花南てほんと面白いんだぜ?なんだろ、俺分類だとおがきちかとか紫堂恭子みたいなもののわかった女流ファンタジーマンガ家と同じ箱に入ってる人。魔法ってガジェットへの愛が溢れてて。あとはダイアナ・ウィン・ジョーンズとか。そのあたりが好きな人にはオススメかも。なお、ヒロインのアキラキさんの自然体な無敵さもすてき。

暗闇にヤギを探して〈3〉 (MF文庫J)

暗闇にヤギを探して〈3〉 (MF文庫J)

ふわふわの兄貴 (コバルト文庫)

ふわふわの兄貴 (コバルト文庫)


そして外してはならないのが『超妹大戦シスマゲドン』、その特に2巻。妹でバトる話。盛り上がり続けることによりマンネリと対抗、人はインフレにすら慣れるものだけど、2巻後半からそれまでとは比べ物にならない勢いでインフレし始めるあたりが技。
でもなんといってもこれは最終章が凄い。古橋秀之の作品にはたいがい神がかり的におもしろい独立性の高い1章が挿入されるんだけど、シスマゲの最終章“シスマゲドンX”もブラホの第1章“機甲折伏隊縁起”やタツモリ家の食卓第1巻第3章“特攻、150光速!”が凄まじいのと同じように凄まじい。1巻で読むのやめた奴はホントもったいないことしてるので立ち読みでもいいから読むといいよこれ。したら買いたくなるもん。
めちゃめちゃ面白い話は何度読んでも面白いものですが、シスマゲの最終章はこの凄く面白いという部分を“変”に対する担保として使われているため、その“変”もまた何度読んでも色あせない。こんな大傑作なのにコンセプトが妹で石川賢かよ!という。だがそれでこそ。
やはし一発ネタであればこそネタ以外の部分が重要になってくるものと思われます。先ごろ復刊した大久保町シリーズもそういう部分がありますでしょか。いやあれは3部作だし、前提条件が無茶なだけでなくて変な小ネタをそこここで効かせてきますけどもね。それでもやはり基本のボーイ・ミーツ・ガールの面白さが全体を支えてる。ボンクラ男子の描写が上手すぎる。あと脚のきれいな女の子がかわいすぎる。ついでに付け加えると中年の切なさも同じ様に上手くて面白くて泣ける。

超妹大戦シスマゲドン2 (ファミ通文庫)

超妹大戦シスマゲドン2 (ファミ通文庫)

大久保町の決闘―COLLECTOR’S EDITION (ハヤカワ文庫JA)

大久保町の決闘―COLLECTOR’S EDITION (ハヤカワ文庫JA)


規定外になってしまいますがなおどうしても一言添えておきたいのがオーフェン無謀編と、極道くん漫遊記外伝の6巻『眠れる森の美女と野獣』。無謀編は長いことやってたので結構雰囲気が変わってるんですけど僕がすきなのは特にその後期のもう完全にナアナアのグダグダになってるよな話で。無謀編10巻収録の魔術士撲滅キャンペーン中の喫茶店でレスカを飲む話とか。なんであんな人気シリーズの外伝がこんな話なのか。しかもこれで10年近く前の作品なのか。マジでか。あと無謀編メインヒロインであるコンスタンス・マギーは天下無敵の姉萌え小説であるオーフェンシリーズの中でもいっとう魅力的な女性だと思います。婿に行きたい。
他方、ゴクドー外伝の6巻。これがホントに凄いんだよな。ネタバレになっちまうから詳しくは言えんけれど、あんな人気シリーズの重要キャラ、魔界のプリンスである二アリーに、こんな、なんていうか、豊かな人生を歩ませることができるゴクドーという作品の度量にはよほどのものがある。あんまり不意打ちなんで素で感動しちゃったよ俺。今回紹介した変ラノの中では実のところいちばん人に薦めたい作品。あとこれもヒロインが可愛くてなー。しかもせつない。最後しあわせになってよかった。ほんとによかった。俺は泣いたよ。
上記二つは、単発ものでやるならあまりラノベらしくないタイプの話ってだけで終わるんですけど、これはどちらも人気のシリーズの人気のキャラを使ってラノベらしからぬ話をしてるわけで、そこで“変”さが保障されてます。しかもそれによって作品がよりいっそう豊かになってるんですよね。“変”もまた作品の一部なれば、そのようにあってしかるべきでしょう。


と言うことで以下5つに投票。

【変ラノ/4840222789】
食卓にビールを〈4〉 (富士見ミステリー文庫)

食卓にビールを〈4〉 (富士見ミステリー文庫)

【変ラノ/4829163178】
TOY  JOY  POP (HJ文庫)

TOY JOY POP (HJ文庫)

【変ラノ/4894254565】
暗闇にヤギを探して〈3〉 (MF文庫J)

暗闇にヤギを探して〈3〉 (MF文庫J)

【変ラノ/484011840X】
超妹大戦シスマゲドン2 (ファミ通文庫)

超妹大戦シスマゲドン2 (ファミ通文庫)

【変ラノ/4757734530】