『遊具シリーズ① ブランコ』


ヒロ君はブランコに乗っていました。
ブランコがブランブランとゆれるたびにヒロ君の体は重くなったり軽くなったりしますし、ぐいーんぐいーんと動くたびにヒロ君の目の前を地面と空が行ったり来たりするのです。ヒロ君はブランコに乗りながら足で地面をこすり、うふふふと笑いました。
そんな時、公園に一羽のカラスが舞い降りてきました。カラスはぴょんと跳ねるとばたばたと少し羽ばたき、さらにぴょん、ばたばた、ぴょん、ばたばたと、2回ほど繰り返した時にはもうブランコの目の前にまでやってきていました。
カラスは黒くて大きな、とても立派なくちばしを持っていて、それを見たヒロ君はブランコをこぐのをやめました。
カラスは言いました。
「やあ、坊や。ブランコなんてこいでて楽しいのかい?」
ヒロ君はうふふふと笑ってから答えました。
「楽しくなんかないよ。とても面白いのさ」
「でもほんとのところ、別に面白くもないんだろう?」
ヒロ君は少し考えました。物事にはそういった側面もあるかもしれません。
「そうだね。そうかもしれない」
「ああ、そうとも。だってそのブランコはいくら大きく動かしたところで、ブランコの鎖がその横棒につながれている限り、どこにも行けはしないんだ」
カラスはさらに続けました。
「君が一回こぐごとにブランコはどれだけ動くと思うんだい?ほら、このとおり!」
カラスはそう言うと、ブランコの横側でひとつ、ぴょん、ばたばたとやりました。
「どうだい、オレ様おとくいの“羽ばたきジャンプ”と同じくらいじゃないか。これはなかなかたいそうなもんだぜ?それなのに坊やと来たらどうだい。いつまでも同じところをぎーこぎーこと。お前さんの頑張りが無駄になってるんだぜ?全部その鉄の棒のせいさ。」
カラスはここで片方の翼をばっと広げ、胸をそらして高々と宣言しました。
「お前さんは損をしてるんだ!」
損!ああ、なんということでしょう。ヒロ君は損をしていたのです!
ヒロ君は少し泣きそうになりながら言いました。
「そんなのって困るよ」
カラスは答えて、
「ああ、安心しな坊や。にいちゃんが何とかしてやるからな。」
と言うや、ブランコの鎖の根元を横棒の上からつつき壊し、それを両足で掴み、一声「そうれ」と言って、空へと飛びだしたのです。



これ以降、ヒロ君を見たものは誰もいません……。