ポニョ感想

アニメ

ポニョ鑑賞のあと別の日に見に行ったんですけど、押井守が若者向けに作ったというスカイ・クロラは、諦念に塗れつつもぎりぎり前向きな、なるほどこれは若者の方を向いて作っているのだなーと納得のできる作品でした。


そこで一方のポニョですよ。宮崎駿が子供達のために作ったのだそうです。
絵本的ではあるけど絵本を映画化して１０１分にはならねーよとか、子供は筋みちなんか気にしちゃいないかもしれないけどそれは筋みちを立てなくていい理由にはならねーよとか、そのあたりは御年６７歳体力の衰え的に仕方ないのだと言う事にしたとしましょう。
しかしあのエロイものキモイものコワイもの含めたイメージの洪水は、もうどうにも、他人のことを考えて作られたものには見えないっす。宮崎駿の宮崎駿による宮崎駿のための映画でしょポニョって。百歩譲って宮崎駿自身の中の子供の部分のための映画。というか“子供のために作った”ってのがすでにして言ってみたかっただけなんじゃないですか？


やあ、もちろんそれが悪いってことは無いですよ。作品の価値は物語部分にのみ求められるものじゃない。他の見所はたくさんありました。画面全体がめちゃめちゃに動きまくりますし、現出するイメージの趣味のよさには磨きがかかっとります。冒頭のクラゲやらプランクトンやらが舞い踊る中を海面へと向かうポニョですとか、ウミガメや首長竜みたいな４枚のでかいひれで泳ぎ回る潜水艦ウバザメ号ですとか、水没した町を泳ぎまわるデボン紀の甲冑魚ですとか。
それにキャラもいいです。ポニョの父フジモトのいかにもダメ人間ぽいところも萌えますし、宗介の母リサは旦那のいるナウシカ（しかもその旦那は留守）みたいな感じです。
全体としては、映画らしい映画をみたい人にはお勧めできないけど、宮崎駿のファンならＤＶＤ買うべき、て感じかと思います。


さて、それはそうと。
序盤の海のそこをさらうとゴミばっかりという描写が自分はやけに引っかかったのです。どうも否定的な感じがしないんですよね、ゴミに対して。たくさんのゴミが舞い上がるさまはむしろ楽しげでさえあります。
あるいは崖下でポニョを拾った宗介に打ち寄せる波の描写。意味も無くすごく怖いんですよここ。水の事故がリアルに想像されます。こんな序盤であるにもかかわらず主人公が死んじゃうんじゃないかとビビリました。
またあるいは瓶にみっしりと詰まったポニョを助けるため、宗介がポニョにひとかかえもある岩を振り下ろすシーン。そりゃ子供ってそういう無茶しますよ？でも流石にどうなんですかあれは。海の魚を真水に入れたら死んじゃうって文句言ってる方がたくさんいらっしゃいますけど、それ以前の段階でもっと根本的に何かがおかしい。
なんといいますか、映画の物語上の文脈だけでなく、今の世の中の倫理的な文脈さえも、個々の描写から外されちゃってるのです。
思うに、ポニョの世界は宮崎駿にとってのありのままの世界なんじゃないですかね。物語も善悪も関係なく。浅瀬をさらえばゴミ、波は恐ろしい、子供は無茶するものだ。でそれがなにか？みんな当たり前のことじゃん、とか。
ありのまま、ってのは聞こえはいいですけど曲者です。人間的な善悪の判断を意に介さないわけですから。俗人からしてみれば無責任であるともいえます。もし宮崎駿にあの洪水で死人は出てるんですかって聞いたら、洪水なんだから当たり前ですよ何百人も死んでますよって何の屈託も無く答えるんじゃないかと思いますし、あるいは仮にポニョを見た子供が水道水に金魚突っ込んで殺しちゃっても、こういうことってよくありますよね子供かわいいですねってニコニコしてそな気がします。ポニョにはそういう不気味さが、老境の宮崎駿はすでに人の姿をした人で無いものになってるのではないかというよな名状しがたい恐怖があります。とりあえず自分にはそのように感じられました。


さてさて、ところでポニョの作中にも善悪を問わない、そして善悪を問われない登場人物が存在します。一人はまさしく人を超えた存在であるグランマンマーレと、そしてもう一人はヒロインのポニョです。
こっからものすごい与太をとばしますが、グランマンマーレとポニョは同じ存在の別の側面みたいなとこもありますし、それにまたこの映画のものすごい楽しげな暴走っぷりを考え合わせると、老境の宮崎駿はついに神＝少女との同一化にいたったと言えるのではないでしょうか。いや与太なのは分かっていますが。
でも俗世から離脱した宮崎駿の精神が、元気一杯の女の子のかたちへと帰っていく、てのはいかにもありそうな話ではないですか。どうですか。
んでそういう視線でポニョって映画を見てみると、「ポニョ、宗介、すき！」てのが。いや宗介って理想化された吾郎ですよね？これは切ないわあ。吾郎もいい年して父殺しの映画とか作ってる場合じゃないですよ。うけとめてやらな！ぱやたん（設定年齢５才）がかわいそうやないか！とかってことをぐるぐると考えてしまうわけですよ。いやはや。アホですか俺は。