嗚呼、素晴らしき3巻ラノベの世界


twitterでうごうごしていたところ3巻で終わるラノベは名作ぞろいである事に気づいたので紹介。
「あれが無いじゃん!」と言う意見に関しては読んでないか、読んでても今僕のうちに無いかなので勘弁してやってください。

耳刈ネルリ』シリーズ

耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳 (ファミ通文庫)

耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳 (ファミ通文庫)

ラノベの最先端のひとつじゃなかろーか。
現代ラノベの基本は学園コメディですよね?その学園コメディにひとひねり加える方法として、「どのようなジャンルを学園コメディをもちいて語るか」と、「学園コメディをどのように語るか」の2つの方向性があります。で、ネルリはこれを両方やってます。
具体的には、すごく旧ソ連っぽい異世界での学生生活という一風変わった舞台設定と、妄想・妄言・オタクネタに彩られた一人称体の地の文なんですが、一見もの凄く食い合わせが悪そうなこれらの要素が学園コメディを接着剤に奇跡のバランスでまとまってるのですよ。時間の経過に対して意識的であることも手伝って、3冊読み終わるとこのバカな友達と3年間の学園ライフを一緒に生きたような錯覚に襲われます。体の芯の部分まで共感が響いてくるんですよー。
各地からやってきた学生との異文化コミュニケ要素が多いのが1巻、一番盛り上がるのは2巻の半分近くを占める学生ミュージカル(これ凄いよ)、一番作者の文才の切れ味がキレっキレなのは3巻。好きな台詞は「わかった!その恐ろしい笛を海に捨ててくる!」「真理!便利!ネルリ!」「ゲブラーシカ」です。

暗闇にヤギを探して』1〜3

暗闇にヤギを探して (MF文庫J)

暗闇にヤギを探して (MF文庫J)

「学園コメディをどのように語るか」っていう戦場で戦ってるタイプの作品。とにかく作者のセンスがいい!普通の人には見ることが出来ないものが見えてます。
作品の特徴は3つ。
まずラブコメな割りにこの作品の主人公は恋ってものがよくわかっておらず、女の子にアプローチされると「ひとを好きになるってどういうことだろう?」などと周りの人たちに聞いて回るところから検討をはじめたりします。この噛みあわないが故のふわふわとした感覚が作品全体を覆っています。
次に作者の幻視能力の高さ。作品の最大の武器ですね。風車のある風景や、いつもきぐるみを被っている幼なじみや、恋愛成就を流れ星に願うために夜毎に学校の屋上からライフルで星を撃ち落している星落とし姫などなど。心のありさまが虚実の壁を越えて現実を変容させてしまっているような、でもそれのみに留まっていない自立した幻想、それはそれは美しい風景たちです。
最後ですが、この作者はいらないとおもったものは大胆に切り捨てるタイプなんですね。問題に片がついたらエピローグなしにすぱんと終わっちゃう。これは賛否あるようですが自分はこれもありだと思います。
さて、ところでこの作品おそらく打ち切りを喰らった結果3巻で完結になったのだと思うんですが、その最終巻では前述の作品の諸特徴が濃縮されてえらいことになってます。すでに描き終わったものを見極めて、描くべきものに力を注ぎ、その落差をアクロバチックなちょっと唖然とする強引な展開で成立させます。これすごいんですよー。ぜひいっぺん読んでみてください。

ブラックロッド』シリーズ

ブラックロッド (電撃文庫)

ブラックロッド (電撃文庫)

ケイオスヘキサ3部作などと呼ばれることも多い作品。
ダーク系中二病ラノベの極北にしてラノベ史上の金字塔。でも高い筆力と乾いた筆致と叙情に流されないバランス感覚で非っ常に読みやすいです。
富士見→電撃の王朝交代の先駆けになった作品で、このアクの強い作品が第2回電撃小説大賞で大賞を取って登場したことは後続の作家達に少なくない影響を与えました。
構成力も文章力も凄いんですけど、どうしてもまずは設定とキャラの話になっちゃいます。オカルトパンクと称される魔術の異常発達した世界、マーチ調にアレンジされた般若心経と共に霊柩車風の兵員輸送車で乗りつける機甲折伏隊〈ガンボーズ〉、肉体が原子レベルで聖別されハロー効果が可視波長に達するマッチョな「超弩級聖人」ことハックルボーン神父、魔神「百手巨人」vs機動折伏隊の切り札「重機動如来ビルシャナ」(大仏がドロップキックかますと巨人の体に仏足跡が!)、全てを陵辱し虐殺する「嗤う悪霊」スレイマン、他いろいろ。アイデアのセンスと物量に圧倒されちまいます。
1巻は魔術師の特殊捜査官と私立探偵が陰謀を追うハードボイルド、2巻は吸血鬼禍の都市を少年少女が逃避行する墜落系ボーイ・ミーツ・ガール。どっちも切ないんだよなー。3巻はいろいろあって異形の都市ケイオスヘキサがついに滅びるまでの話なんだけど、いろいろありすぎてなんて言っていいのかわからん。とりあえず最初に浮かんだ感想は「これ作者はイ××ム教徒に殺されるんじゃね?」でした。
むちゃくちゃ面白いので、少なくともボンクラ系のオタは必読ですぞ。

星界の紋章』1〜3

星界の紋章〈1〉帝国の王女 (ハヤカワ文庫JA)

星界の紋章〈1〉帝国の王女 (ハヤカワ文庫JA)

“アーヴ”という遺伝子改造された人類による星間帝国の貴族にわけあって叙された(同時に故郷喪失者にもなった)ジント・リンが、アーヴ帝国の王女ラフィールとともに冒険と逃避行をくりひろげる話で、宇宙空間でチェスするように艦隊戦をするスペース・オペラでありつつ、同時にほとんどもう完璧と言っていいボーイ・ミーツ・ガールでもあります。
90年代SF冬の時代にひとり気を吐いていた作品ですが、その原動力はヒロインの魅力を前面に押し出している事で。もちろんアーヴ文化の作り込み等SFとしてがっちり面白い事は前提ですが。
ヒロインは王女で軍人で青い髪にエルフ耳をしたミドルティーンの女の子ですーげー可愛いんですけど、そのヒロインがきっちり3冊すべての表紙絵をピンで飾ってるのです。ちなみに決め台詞は「ラフィールと呼ぶが良い!」。
こうした作品の魅力のあり方は、後のMF文庫Jとかの萌えコメとマジでまったく変わらない感覚を呼び起こすものであり、ヒロインの造形と主人公の立ち位置の取り方がラノベヒロイン史に与えた影響は凄く大きいのではないかと最近になって思うのでした。

『大久保町』シリーズ

大久保町の決闘―COLLECTOR’S EDITION (ハヤカワ文庫JA)

大久保町の決闘―COLLECTOR’S EDITION (ハヤカワ文庫JA)

電撃文庫の初期を代表する怪作。でも怪作にして名作です。
作者はもと吉本興業の台本作家で、たまに田中啓文と間違えられる寡作のラノベ・SF作家田中哲弥
舞台は兵庫県明石市大久保町という地方自治体。でも現実の大久保町とは関係ありません。各巻ごとにまるで設定が違ってて1巻では西部劇のようなガンマンの町、2巻ではナチス占領下と言うことになってます。3巻は大久保町を訪れた某国の王女“プリンセス・カナコ”が誘拐されて云々という話なので町自体が異常な状態になるわけではないんですが、でもやっぱりタコまみれの水族館とか出てくるしかなりおかしいんじゃないか。
ストーリーはベッタベタのB級アクション映画風ですが、地の文章が作中現実から乖離してて、平気でツッコミを入れたり感想を述べたり一人称三人称を越えて心情描写を語ったりするもので、作品のノリはすごく適当な感じにライトです。現代ラノベのライトさとはまた違う軽さですねー。
でも話の骨格がボーイミーツガールである事は揺るぎがない。3人の主人公はどいつも女の子のためならつい頑張っちゃう素直で元気なバカ男子で、なおかつヒロインがいちいちきっちり可愛い。くせの強い脇役たちのどたばたの中で女子のもとへと真っ直ぐに向かっていく男子の思いがとても気持ちのいい作品です。


どの作品もちょうオススメ!しかも3冊だけだから手を出しやすいぜ?
本当言うと『E.G.コンバット』を入れたくて仕方が無かったのですがそれは頑張って自重しました。
(おわり)