忍殺2巻各話感想

ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上 (2)

ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上 (2)

「パンキチ・ハイウェイ・バーンナウト」
冒頭から新訳エピ!
フジキドが物語装置に徹してるタイプのエピソードで、作品世界を立ち上がらせるためのちょっとしたサブストーリーですが、廃業ハッカーがニンジャのビズにかかわってどんどん悲惨な状況になっていくストーリーはよどみなく力強く、たいへん面白いです。オチもよし。
あと突如ぶちきれる恋人のモナコさんがたいへんカワイイでした。
コミカライズ妄想は福満しげゆき


「チャブドメイン・カーネイジ」
オスモウ・バーでニンジャスレイヤーを待ち伏せ
相変わらず本当にひどいネオサイタマのスモウ描写が本当にひどい。……本当にひどいな!
ヴィトリオールはパッとしなかったけど、この作戦に選ばれたからにはそこそこ実績・実力のあるニンジャだったのかなーと思いますが、というかですね、twitter版と比較するとインフェクションの操る虫の数が1008匹から一○八匹に変更されてるんですが!もともとシックスゲイツの中でも地味なほうなのに書籍化にあたって能力を下方修正されたインフェクションの明日は!どっちだ!
コミカライズ妄想は江口夏美。


「ユーレイ・ダンシング・オン・コンクリート・ハカバ」
カネモチ・ディストリクトはネオサイタマの地名の中でもひときわ投げやりな感じがするんですが割と頻繁に出てきますねー。死装束を指して頭にふんどしをつけていると説明するのは作中屈指の最悪さだと思いました。いい意味で。
もともとはちょっと食い足りないとこのあるエピソードでしたが、書籍化にあたってボリュームと満足感が増してるように思えます。お父さんがいちいちカラテの型をキメるとことかは書き足されてますよね。
あとフジキドにはもっといいフートンを贈ってやりたいです。
コミカライズ妄想は山本康人。


「スシ・ナイト・アット・ザ・バリケード
オムラのモーターなんちゃらシリーズ第一号モーターヤブが登場。冒頭でのトラック運転手の、安堵したのちに利己的な自分を少し恥じた、ってくだりがたいへんよいです。
すぐ敵に捕まったり記憶喪失になったりするユカノは、ヒロイン力が高いというよりキャラ格が低いって感じですねー。ユカノ株の回復には第2部終盤を待たねばならないのでした。
あ、サンシタのエクスプロシブのさらにかませという、たいへん残念な立ち位置の男ラプチャーへのフォローがわずかに手厚くなってます?
コミカライズ妄想はカサハラテツロー


「フジ・サン・ライジング」
第一部を代表する傑作回。
激怒するディンタキ社長、恐怖にたえる幼いモマメのけなげさ、そして外道ロシア人ニンジャ・サボターのロシア語が混じりまくるトーク、全編にわたってテンションはパンパンです。
サボターは良いニンジャですねー。忍殺の数ある悪役描写の中でも筆頭の名品ですよ。卑劣・悪辣、変な言葉づかいとまずまず高い実力、慢心と狼狽、だがシックスゲイツの意地は見せる!
あと扉絵に謎のキャラクター「モチヤッコ」の姿があるのにも注目。
コミカライズ妄想は高橋のぼる


「ジ・アフターマス
戦争キチガイガントレット&センチピード登場。ニンジャのイクサの描写だけで出来たシンプルな話。
組織にも内緒のまま、自分の考案したスナイパースリケンによる戦闘技術を他人に教えまくっていたガントレットもたいがい危険人物ですし、ビジュアル化されたセンチピードのメカ度の高さもヤバイですね。
極端にサイバネ化されたニンジャというとレイザーエッジとかネブカドネザルとかがいますけど、どっちも追い詰められた巨大組織の非人間的な圧力が背景にあるわけじゃないすか?センチピードは何の説明もなくあのドッキリギミックなわけですよ。何なんでしょうねあいつ。頭がおかしいんでしょうね。
コミカライズ妄想は平野耕太


「ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト」
サンシタニンジャとそれに関わった一般人がメインでフジキド側にドラマが無い短い話、という点で冒頭のパンキチハイウェイと同系のエピです。
その上で、視点がネオサイタマ市民の側にあったパンキチとサンシタ側にあるカインドとが呼応して、ネオサイタマがどういった街であるかというイメージを作り上げています。
書籍版の1巻は主要キャラクターの紹介に主眼が置かれていましたが、2巻は物語の背景となる都市とそこに住む人々を描き出す事を目指したエピソード選択をしているようです。
コミカライズ妄想は真鍋昌平


「アット・ザ・トリーズナーズヴィル」
進歩的革命組織イッキ・ウチコワシの戦闘的エージェントであるフリックショットの弁舌がすごい。フジサンのサボターに続いてボンドの技が冴え渡ります。
フリックショットは主義主張を殺戮のための建前に堕さしめてしまっている男で、フジキドはそれを良しとせずイッキ・ウチコワシと袂をわかったわけですが、それでもとにかくモータルな人間を対等な同士と呼び共に戦ったという点では割りと特異なニンジャだったように思います。
コミカライズ妄想は細野不二彦


「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」
フジキドの登場しない外伝的エピソード。忍殺におけるヤモトサーガの中の、長い時を生きることになるであろうヤモト・コキという女性の人生の中の一ページ。
シルバーカラスは余命いくばくも無い殺し屋で、ヒロインを保護して戦う術といくらかのお金を与え、体には手を触れずに死ぬというやたら都合のいいロマンチック存在ですが、一方で悔いを残したまま死のうとしている男の前にあらわれたヤモトも同じくらいロマンチックな存在ですね。
フジキドが出ないせいかたいへん情感あふれる名篇で、書籍でまとめ読むと切なさもいや増します。こういう話のほうが書籍版には向いてるのでしょう。
コミカライズ妄想は篠原千絵


「グランス・オブ・マザーカース#1」
ここに入れてきましたかマザーカース。#2へ続く、と引いて終わるので、忍殺の連載ものとしての楽しさを再認識します。
コトダマ空間は技量の高いハッカーだけが認識しているというネットワーク上の別世界。未だにこれがいったい何なのか明らかにされてないですけど、高度にSFでしかもファンタジックなこの設定は極めて魅力的。
映像的なイメージとしては『電脳コイル』を連想しますが、でも電脳コイルは神様は結局出てきませんでしたけど、コトダマ空間には恐るべきリアルニンジャが巣食っているのでした。
コミカライズ妄想は八房龍之助


「オウガ・ザ・コールドスティール」
恐るべき殺戮ロボモータードクロ登場。「モータードクロは戦闘状況をデフラグ中です! これは、よくわかりません! エート、わかりにくい!」なんとかしろよこのポンコツAI!
マッポーのネオサイタマとそこに生きる人々に訪れるチャメシ・インシデントな悲喜劇を描いてきた書籍版2巻の最後のエピソード。その一番ラストにおいて、ニンジャスレイヤーの登場ももはや手遅れで息子を失ってしまったサブロ老人が、守るべき妻子をすでに亡くした男であるフジキドに、それでもなお「頼んだぞ……これからも」と言うわけです。
これにより、個人的な復讐に突き動かされ先の見とおせぬマッポーの世をただ走るフジキドが、ネオサイタマに生きる人々にとってのヒーローとして立ち上がってくるわけで、それを目指した2巻であったということがわかります。計算されたエピソード配置の妙であります。
コミカライズ妄想は武井宏之


サンシタつながりのパンキチとカインド、父子つながりのユーレイとオウガ、ウチコワシつながりのバリケードとトリーズナーズ、オムラつながりのバリケードとオウガ、セスナつながりのフジサンとアフターマス、マキビシつながりのフジサンとオウガ、スナイパースリケンつながりのアフターマススワンソング、というようにエピソードが連関しており、オウガのラストが全体を纏め上げていることとあわせ、1巻よりも一冊の本として完成されている2巻だったとおもいます。
イラストで一番よかったのは表紙の背中合わせのニンジャスレイヤーとフジキド・ケンジ、キャラデザでよかったのはサボターでした。
さて、3巻はおそらく狂気的エピ大集合になります。たぶん天狗が目玉です。備えよう。