http://kiicho.txt-nifty.com/tundoku/2008/03/post_7dd4.html
最初にコメントしたのは僕です。名前入れ忘れました。


紅玉いづきさんは、ミミズクしか読んでないんですが、この人って、思いついちゃった萌える人間ドラマがファンタジーで無いと実現不可だったのでファンタジー書いてるタイプのひとなんだろなと思います。その辺の主従の逆転は男オタのセカイ系にも近いような。この人の作品を好きな人は『たった一つの冴えたやり方』とかも好きなんじゃないですか。


十二国記に関しては、『月の影 影の海』と『風の海 迷宮の岸』は異世界探訪、『風の万里 黎明の空』と『図南の翼』は旅FTですから、バリバリのジャンル異世界ファンタジーでもある思います。人間を通してとかまだるっこしいこと言わずに地の文でガンガン描写していきますけど。十二国記のキャラクター描写についても、王だとか麒麟だとか、ファンタジックな世界の仕組みを背景とする特定の立場を持つことがキャラ描写の起点になってますんで異世界を描くこととキャラクターを描くことを分けて考えるのは無理じゃないデスかね。つかどれが一番てことも無く全部ハイレベルで達成してるのが十二国記が当代随一の和製ファンタジーたる所以であると思います。


以前にもちょっとコメントさせていただいたことがあったと思いますけど、ゼロの使い魔の4巻は本当に素晴らしい。
たしか井辻朱美さんの本で読んだんだったと思いますけど、ファンタジーの効果のひとつとして、ものごとの価値を再生、再認識させることがあるそうなんですよ。例としてはたしかディズニーのファンタジアの踊るほうきがあげられてました。
さてさて、あるときヤマグチノボル先生は、セーラー服の魅力を伝えるためにどうしたらいいかと考えていました。魔法のセーラー服でも作りますか?いいえ否です。そんなものはセーラームーンで消費されつくしていますし、それにあんな変形セーラ−服ではセーラー服の真の魅力は表現できません。そこでとった手段が、セーラー服を、セーラー服と言うものが存在しない異世界で、仕立て直した海軍の制服と、それを着た黒髪の女の子という要素にいったん分解することでした。セーラー服の魅力が異世界の住人であるギーシュとマリコルヌにまで通用した瞬間、分解されたことによって失われてしまったはずのその文化的意味が突如として復活し、僕らはそのある種魔術的な魅力を改めてはっきりと認識するのです。
ゼロ戦やらに関しても異世界においても変わらぬ威力を示すことによって価値の再生を目指している点は同じですけど、概念の破壊と再生のダイナミズムを経由している点でセーラー服の描写のほうが一層レベルが高いと考えられます。
しかもセーラー服描写はこのあと、この世界の文明レベルでは庶民は膝上15センチのスカートに合わせられる下着など持っているはずが無いという、異世界描写と一体化した、しかもきわめて端正・端的で美しい理論を背景として、なおかつまったく不意打ち的に、ぱんつはいてないであることが追加して明かされるわけですよ。
これはもう泣くしかないんじゃないですか。ブレザー派のオレでも転びますよ。萌えと異世界ファンタジーの究極の融合。やることが完璧すぎてアートの領域に踏み込んでないですか、もう。


野梨原花南ラノベ界きってのFT作家だと思いますけど、方向性はかなり特殊というか、基本的に異世界を構築することに興味が無いし、描くキャラクターの内面はほぼ現代人です。代表作がおとぎ話的世界のパロディーである『ちょー美女と野獣』ですからね。じゃどのへんがFT作家なんじゃいと思われるでしょうけど、この野梨原先生、ギミックやガジェットとしてのファンタジー、つまり魔法を扱うのがムチャクチャ好きな魔法使い作家のかたなのです。この人以上に魔法に愛のある作家ってダイアナ・ウィン・ジョーンズしか知りませんよ僕。物語のプロットからして魔法“で”どうにかする話か、魔法“を”どうにかする話かのどっちかですし、登場人物は魔法によって人生を大きく変えられた人ばっかりです。また、異世界を作り込む事はしませんが、一方で雑談しながらみんなでわいわい魔方陣を書いたりとか、魔法の杖のさまざまな神秘的な素材についてつらつら述べたりとか、自然な流れの中に魔法的な描写をちょこちょこと投入してくるのです。あと呪文のセンスもなかなかよいです。
おすすめはやはしマルタ・サギーですか。ちょーは長すぎますし、ヘブンリーやよかったり悪かったりする魔女シリーズは短いですけど野梨原さんの芸風がいい意味でも悪い意味でも全開で最初の1冊としてはちょっとピーキー過ぎる。ヘブンリーはダダ漏れっぷりが気持ちよいですし、よか魔女シリーズも魔法濃度が濃くて面白いんですが。
マルタ・サギーはレーベルが富士ミスと言うこともあって男読者にむけてという意識が強く出ていると思います。他の作品と比べると魔法的な描写には力を入れていないというかわりと適当にやっつけちゃってる感がありますが、話しの骨格はがっつりファンタジーであり、なにより一般的な意味ですごく面白いです。男オタ向けを意識したせいか、1巻時点で普通のダセー厨二病ファンタジーと判断されてる感想も見かけたことありますが、でも後でマルタのモラトリアムはちょっとびっくりするぐらい全力で叩き潰されます。そういう意味でマルタは、オーフェン戦闘城塞マスラヲのヒデオあたりと連なるキャラだと思いますし、男子の成長物語としてたいへん筋が通った作品になってます。それに薔薇マリにも似た「ええ、そんなことするんだ!?」てな展開もあります。軽くてゆるいノリや気風のいい女の子の魅力はいつもどうりですし、野梨原さんのちょー以来の新たな代表作といえるでしょう。
id:capskanaさんの熱のこもった感想もご紹介しておきます↓
http://d.hatena.ne.jp/capskana/searchdiary?word=%a5%de%a5%eb%a5%bf%a1%a6%a5%b5%a5%ae%a1%bc%a4%cf%c3%b5%c4%e5%a4%c7%a4%b9%a4%ab%a1%a9