イヤーッ!実際傑作、「ニンジャスレイヤー」!!

ドーモ、みなさんおひさしぶり、hatikadukiです。
ところでみなさんは、巷で噂の「ニンジャスレイヤー」を知っていますか!「ニンジャスレイヤー」とは2010年7月からtwitter上で連載されている小説のタイトルです。自分も今年の秋にまとめ読みしてドはまりしたのですが、紹介記事みたいなのは意外と見つからないのでDIYしてみます。ちょっと自分の手には余る傑作ではあるのですが、できるだけ「ニンジャスレイヤー」という作品の素敵さをお伝えできるようがんばります。カラダニキヲツケテネ!

とりあえず概要

↓こちらが「ニンジャスレイヤー」を連載しているtwitterのアカウントです。
http://twitter.com/#!/NJSLYR
特徴としては、エピソードごとの独立性が高いという作品の特徴を活かし、時系列シャッフルでの連載を行なっている点があり、これは公式アカウントによる解説「はじめての皆さんへ」http://togetter.com/li/73867に詳しいです。
さてこの、連載をおこなっているtwitter上のアカウントでは、作品の概要を以下のように語っています。

未来日本を支配する闇の存在、それはニンジャ。超常のカラテで彼らニンジャを殺し続ける恐るべき復讐者あり!B・ボンド&P・モーゼズ作、サイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」。フォローしてTLにニンジャ世界を。

作者はふたりのアメリカ人であるようです。もともとはアメリカで発表されて埋もれていた作品であり、それを手に入れてファンとなった人が翻訳チームとして連載を行なっているのだとか。情報が制限されており、こちらのまとめ→http://togetter.com/li/84043以上の経緯の詳細はなかなかうかがい知れませんが、翻訳チームの方々の翻訳・連載にかけた思いを想像すると胸が熱くなります。
が、とは言えもう一方で、あまりに多彩なウソ日本文化ジョークに彩られた「ニンジャスレイヤー」を、アメリカ人が書いたとか言われても全然説得力を感じないのも正直な気持ちです。だからといって作品の製作背景までの全てがどっかの天才的日本人の巨大なホラ話であるなどとも思いがたく、つまるところ、ホントにこういう世界があって、その実況が時空を越えて日本のtwitterに届けられているのだという発想にいちばん説得力感じます。そんなことを考えてしまうくらいには、底の知れない作品なのであります。


なお、過去のエピソードは以下のサイトから読むことが出来ます。
公式サイトhttp://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/
ファンサイトhttp://www10.atwiki.jp/njslyr/

で、実際のとこ「ニンジャスレイヤー」ってどんな話なのか

つづいて、「ニンジャスレイヤー」と共通する要素のある別作品を引き合いに出しながら、作品の特徴と魅力を説明してみましょう。


1.この物語を見よ!
ストーリー面での「ニンジャスレイヤー」は、『パニッシャー』が主人公の『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』みたいな話と言えます。
「ニンジャスレイヤー」はまずなによりも、とある復讐者についての物語なのです。

ニンジャ組織間の抗争に巻き込まれて妻子を失い、自身も致命傷を負ったサラリマンのフジキド・ケンジは、怨嗟に満ちた邪悪なニンジャソウル「ナラク・ニンジャ」にとりつかれ、ニンジャを殺すニンジャ「ニンジャスレイヤー」として生まれ変わります。
彼は悪逆非道のニンジャたちを討ち滅ぼしながら、幾人かの信頼できる仲間を得、ときに悲痛な別離を経験しながら、ネオサイタマを裏から操るソウカイ・シンジケートとその首領ラオモト・カン、そしてキョート・リパブリックを支配するザイバツ・シャドーギルドに迫っていきます。果たして彼の復讐は果たされるのか?そして恐るべき力を持ったナラク・ニンジャの正体とは?虚空に浮かぶ黄金立方体キンカク・テンプルとは一体なんなのか?その答えはいまだ明らかになっていません。
また、フジキドの復讐譚がメインプロットとなっていますが、その一方で「ニンジャスレイヤー」は各エピソードの独立性が高く、ある時は学園ガールミーツガール、ある時はハードボイルド、ある時はバイオ系ホラー、ある時は西部劇と、舞台や視点人物を変えて物語られるジャンルの引き出しの多彩さも作品の大きな魅力です。
それぞれのエピソードの大筋はベタもいいところですが、視点人物を複数登場させる等して先読みを難しくしつつ、要所に伏線を配置し、そのうえでやっぱりベッタベタかつサツバツとした到達点へと物語を展開させていく作者の手つきは、表現の奇抜さに反してきわめて丁寧なものです。


2.この作品世界を見よ!
次に「ニンジャスレイヤー」という作品の世界観ですが、ざっくり『世界忍者戦ジライヤ』の舞台背景を『ニューロマンサー』の千葉シティにしてみた、といってみるとある程度お分かりいただけるでしょうか。

世界忍者戦ジライヤ Vol.1 [DVD]

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ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

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ニンジャ+サイバーパンクこの斬新な組み合わせによる相乗効果が、作品世界に奥行きをもたらし、読者に常に新鮮な驚きを与えます!
ニンジャスレイヤーは実際奥深い魅力を秘めた作品ですが、フィクショナルでロマンあふれるニンジャイメージを前面に押し出した、特撮・アメコミ・格ゲー的なキッチュでクレイジー実に堂々とした馬鹿馬鹿しさが作品の主要な美点である事は間違いありません。
またサイバーパンク的な社会描写も勘どころを押さえており、そうした驚異の世界とそれを語る驚異の言葉たちも、作品の魅力のもっとも大きなひとつと言えるでしょう。
作品のおもな舞台となるのは悪徳に満ちた巨大都市ネオサイタマカスミガセキ・ジグラットマルノウチ・スゴイタカイビルの2大巨塔がそびえ、その合間を飛ぶ飛行船マグロツェッペリンの横腹には巨大な広告用スクリーンが設けられ、オイランドロイドデュオ「ネコネコカワイイ」の新曲と扇情的なダンスが映し出されています。カチグミたちが高級レストランやノビドメ・シェード・ディストリクトヤカタブネでさしつさされつする一方、マケグミたちは重金属酸性雨に濡れた街のなか、無人スシ・バー合成マグロ粉末を整形したスシをもくもくと詰め込んでいます。裏社会ではリアルヤクザにとってかわってクローンヤクザヤクザスラングを吐き散らし、都市郊外ではバイオスモトリをはじめとする危険なバイオ生物が繁殖しているのです。これこそは古事記に予言されしマッポの世の姿であり、それを目撃した我々の胸には作品の精神を象徴するキーワード「インガオホー」ショドーが去来するのです。
こうした異形の造語とそれを活かすための無駄を省いた簡潔な文体は、古橋秀之の傑作オカルト・パンク『ブラックロッド』に近いものがあります。
ブラックロッド (電撃文庫)

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また、『ブラックロッド』にはない特徴として、地の文=サンがテンション上がった時のあいの手の面白さがあります。これから何か重要なことが起きるのであれば「おお、見よ!」と呼びかけ、詩的なものに接すれば「ポエット!」、見事な技術とみれば「タツジン!」、真に驚嘆すべきものとであった時は「ゴウランガ!」と叫びます。これらのあいの手が、作品の見せ場にあって読者の感情を更に加速させるのです。


3.この人間描写を見よ!
それでは「ニンジャスレイヤー」はジャンクさが魅力のアクション小説ということでいいのか?それでこの作品を理解したことになるのか?もちろんそれだけではありません。
すぐれたジャンル小説がしばしばもっているのと同じく、「ニンジャスレイヤー」には、この作品によって浮かび上がらせられる世の中のありようが、そして奥ゆかしい人間描写が存在しています。
「ニンジャスレイヤー」が描き出すのは、ヤクザ映画・サラリーマン映画・警察小説・時代劇が描いてきたもの、つまりつかい潰されるヤクザ、日々の生活におわれるマケグミ・サラリマン、かといってかならずしも幸福には見えないカチグミ・サラリマン、学校での居場所を見いだせずにあがくナードやゴスといった、組織に属するものの悲哀、虐げられた弱者達の辛苦です。
巨大な組織と社会システムの非人間性がもたらす悲劇と、その闇を浮かび上がらせる外部者としての忍者という図式が『カムイ伝』と共通しているのは、江戸時代と近未来という時代の差はあれ、忍者という共通の題材を選んでしまったことによる必然なのでしょう。

そしてこのマッポーの世に生きるための最後の希望こそが家族の絆であり、それすらも無惨に奪い去られた時、主人公ニンジャスレイヤーは、そして彼のライバルにして仇敵ダークニンジャは、邪悪な力を振るう恐るべきニンジャとして覚醒するのです。
このように人間ドラマが超常のイクサに接続される点は、現代の作家で言うと藤田和日郎的であるといえるでしょうか。
からくりサーカス (1) (少年サンデーコミックス)

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4.このバトル描写を見よ!
とはいえ!それでもやっぱり作品の華は奇天烈なニンジャ同士の激烈なバトルであります。
圧倒的な実力を持つ寡黙な戦士が、荒野の寒村からメガロポリスの路地裏、高速道路、超高層ビル、新幹線の屋根の上など、様々なシチュエーションで三次元的に戦うという点では、類似する作品として『BIOMEGA』が想起されます。

BIOMEGA 1 (ヤングジャンプコミックス)

BIOMEGA 1 (ヤングジャンプコミックス)

また、その戦いの多彩さと、攻撃的気合いである「イヤー!」、攻撃をくらった際の「グワー!」、耐え難いダメージを受けたときの「アバー!」、狼狽をあらわす「アイエエ!」といった特徴的なシャウトによって表現されるむちゃくちゃなテンションの高さは、『トム・ヤム・クン!』を見ているときの感覚が実際近いのではないでしょうか。また、ニンジャのイクサを彩るのは、なんといってもたくさんの魅力的な悪役ニンジャたちです。
彼らはそれぞれに個性的な戦闘スタイルを持ち、誰もが三度殺しても飽き足らぬド外道であるのですが、同時に共感を抱かずにはいられぬ人間らしい側面もまた有しています。高い実力を持ちつつも会社員的な小人物であったヘルカイトが最期に炸裂させた忠義、自慢の巨大スリケンを操る目と腕を失い絶望に沈むヒュージシュリケンが見せた執念、一度は心をへし折られながら我を捨て開き直ってニンジャスレイヤーに挑んだボーツカイ、みな忘れられぬキャラクター達です。悪役・敵役が好きなタイプの人にとってはまったく天国みたいな作品ですよ。

おわりに

確かな実力と豊富な知識に裏打ちされた「ニンジャスレイヤー」には、物語に、言語表現に、作中世界のガジェットに、キャラクター達に、ありとあらゆるところにたくさんの工夫と意表をつくアイデアが仕込まれています。
この作品にはたくさんの驚きと喜びが詰め込まれていて、twitterで更新が始まると子どもみたいにワクワクして、実際に読めばテンションが上がって血の巡りがよくなってからだがあったまってくるのです。まったく稀有な作品であります。
うまく「ニンジャスレイヤー」という作品の魅力が伝わったかわかりませんけど、もう一度公式アカウントをはっときますので、ちょっとでも興味がわいてきたひとはぜひぜひ連載をチェックしてみてください。ワンクリックであなたの人生にニンジャアトモスフィアが追加されます。それはきっと楽しいですよ!!
http://twitter.com/#!/NJSLYR


そのほか、以下のインタビューもあわせて読むと作品の理解に役立つでしょう。
作者のB・ボンドとP・モーゼズへのインタビューhttp://togetter.com/li/118857
ザ・ヴァーティゴ=サンへのインタビューhttp://theinterviews.jp/njslyr
というかザ・ヴァーティゴ=サンが創作だとかそれが信じられんのですよ!あんたホントにいるだろ!