『日常』あれこれ

『日常』の楽曲

『日常』の1クール目のOP・EDはともに片思いソングでした。
『日常』でよく描かれる妄想とか考えすぎとかその場だけの悪ノリとか、そうした共有されない物語も、人生楽しく頑張るには必要だよねーって肯定しつつ、でも時には思いが通じて欲しいという願いと言うか迷いというか、そうしたものがないまぜになってテンション上がってくると片思いソングとして出力されるんでしょーね。
一方2クール目のOPは友情をタイトルに冠して、嫌な事があったり、かなり凹んだりしても、速攻忘れちゃって友達と一緒にいつだってジャンジャンやる歌です。
『日常』は何かやろうとすると事故がおこるのが前提の話であり、素敵なひとりよがりである片思いソングを踏まえて、凹んだりなんだりを踏み潰しながら加速してゆく友情ソングを持ってくるスタッフの作品理解の正しさったらないよ。
OPはヒャダイン氏の独特のウザさのあるボーカルもよいよね。片思いにせよ友情にせよ不躾なものであります。


また、2クール目のEDが合唱曲なのは、『日常』を視聴してるある程度広い年齢層のひとたちのほとんどが経験を共有できる数少ないもののひとつだからであって、1クール目のOP・EDが片思いソングでかぶせてたのと同じく、2クール目OPが「じょーじょーゆーじょー」の歌なのと対応してる。
共有されている経験を事を思いおこさせ、『日常』をみてる自分と、『日常』をみてるどこかの誰かとにも、なんかの縁があるのだなーと気付かせられる。そしたら、ゆっこたちメインキャラと囲碁サッカー部のひとたちみたいなサブキャラとの距離、『日常』の登場人物とそれを視聴してる僕たちとの距離、『日常』を視聴してる僕と『日常』を視聴してるどこかの誰かとの距離が、同じ価値を持つものとして受け止められるのじゃないかしら。そしてそれは、ゆっことなのが友達になったようにより深く交わる事になる可能性もある。


あと阪本さんのキャラソンは買い。「阪本さんのニャーというとでも思ったか」も「阪本さんのねこじぇらしー」も両方いい。後は聞いたとこ「はかせのサメといぬ」「麻衣の涙の阿弥陀如来」「みおのカプってカプって萌えちぎれ」「みおのゆっこはほんとにバカだなあ」あたりがよかた。
阪本さんのキャラソン、音楽には詳しくないけど『キャッツ』のラムタムタガーとかマンゴジェリーとランペルティーザとかが好きなオレ向けではあった。というかキャラソン並べるだけでミュージカルに出来そうだな。それは観たい。

阪本さんのニャーというとでも思ったか

阪本さんのニャーというとでも思ったか

『日常』のキャラの区別

ゆっことみおのキャラの違いは内面描写の量の差で、バカキャラ の冒険野郎で、内面が少なくて一個の運動体であるゆっこは、現実と正面衝突して財布なくしたり宿題忘れたりボールが当たったり勉強したくなかったりする。
逆に内面の多いみおは、片恋をしたり妄想したり創作活動にいそしんだり走馬灯を見たりする。


くわえて、みおは現実と激突すると、そのポテンシャルを発揮し「荒ぶる」事によって苦難に対抗しようとする。割りと内向的で人に気をつかう性格なので押さえ込んじゃってるけれど、内心色々思うところはあるし、なんだかんだであの姉の妹なので体の中にすげーエネルギーを隠し持ってる。
一方ゆっこは過酷な現実に叩きのめされるのだけど、その現実との激突のほんのちょっと後の瞬間までがひとつの話の中で描かれる。宿題したくなかったけど、とりあえず宿題しとくかと思いなおしたり、犬になぐさめられたり、ただもう落ち込んだり。でもそうやってゆっこは現実を受け止めているんだなあと思える。
みおとゆっこにはそれぞれの現実との戦い方があって、そのへんのキャラの違いを簡単に言うと、芯が強いのがみお、器がでかいのがゆっこ、とか。
まあコンパチな部分も確かにありますが。


さて、『日常』3大不愉快キャラと判定されてるらしー はかせと長野原姉と麻衣ちゃんですけど。
はかせはわがままな小さい子どもだよな。あそこん家は、なのと坂本さんが本質的に博士より立ち位置が弱いので。
逆に言うと、はかせの凶悪なスペックが、はかせが子どもなことによって無化されてるとも言える。


長野原姉は、そんなに変わった人ではないと思う。いつも明るくて表情筋が発達してて、話し方も普通だし、たぶん世界のいろんなものが好きで、とりわけ人間に興味がある。
ただし、本人がハイスペックすぎる天才タイプであるために、どこまでやったらヤバいかを理解してない。
いちばん被害を被っているであろうみおが、ああ見えて意外と根性があるところが、かえって状況を悪化させてる気もする。


そして水上麻衣について。あのひとははかせや長野原姉とはちょっと違って、素で人間界のルールを把握できてない感じがする。他人の考えを推し量ろうとする想像力の起動するタイミングが遅い。そんで具体的な「かたち」とか「うごき」とかにこころを奪われやすい。
その辺、社会と自分のかみ合わせ方がよくわからんかった、小中高時代の自分の考え方や行動を思い出してみれば麻衣ちゃんに共感できる人も多いのではないだろうか。俺は共感を覚える。
んで、内面に対する想像力の起動が遅い麻衣と、内面の少ないゆっこがかみ合うというのはわかる。ところが麻衣とみおが二人だけのときなに話してるのかについてはながらく想像できなかったんだけど、好きなマンガが被ってるという可能性はあるかな。
5巻「日常の82」雨宿りしてたお寺が破壊されて屋根まで吹き飛ぶ話。あのとき麻衣が読んでた『武士道シックスティーン』はみおから借りたんじゃないかとかなんかそんなことを思いました。

その他

・『ヘルベチカスタンダード』 小ネタ満載ですげえお得だったよ。なんかあらゐけいいちの書いた短編小説まで入っててこれまた面白い。あと、あらまさんカワイイ。半分くらいは『日常』ネタなので『日常』ファンの人も安心して買うべし!

・アニメ『日常』ではなのが入学にいたる物語の流れが強化されてるけど、まあ原作でもゆっこ―なのラインと麻衣―はかせラインを結ぶエピは組まれてる。そうするとみお―阪本さんというエピソードがいずれ登場するはずなんだが……。なんか想像できんな。


・『日常』『男子高校生の日常』は身近なちいさな物語とその破壊、『みなみけ』はディスコミュニケーション、『WORKING!』はストレスフルな人間関係を、共感しつつも距離を置いて鑑賞するのが非常に楽しいのでみんなにもおすすめしていきたいと思っております。


・『日常』でシュールだな、と思うのは囲碁サッカーだけ。


まどマギのまどかは破綻する物語たちの上に君臨し、その敗北を悼む存在になりました。『日常』でいうとバディとコバディです。


・まあ長い「エヴァ以降」の決着点は『日常』だろうよと思うわけですが。


あらゐけいいちのイラストの味わい深さと、魅力が右肩上がりに増してきている件について。方向性としては山口晃+女子キャラというか。あるいは『夢使い』。

山口晃作品集

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夢使い(1) (アフタヌーンKC)

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