『僕は友達が少ない』7巻の状況。

僕は友達が少ない 7 (MF文庫J)

僕は友達が少ない 7 (MF文庫J)

だいたいtwitterからの転載。いつも以上にヨタ多めなので注意な!


はがないの話をします!LDmankenさんの夜空の記事→http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/7509024dd765b44a821fa0650246e1a9読んで、それからこっちのラジオ→http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/bf2e7d687c2c65de87a486f6965fefe3を聞いたもんで。平坂読の感想というとcatfistさんのはがない2巻感想→http://d.hatena.ne.jp/catfist/20091206/p1と、作者の前作『ラノベ部』3巻感想→http://d.hatena.ne.jp/catfist/20091204/p1がおもしろいんですが。特に後者が傑作。

黒ロングの取り扱い

えー、7巻の状況を2つの観点から整理してみます。
えと。黒ロングとビッチのダブルヒロインで、とりあえずビッチ落としてからじっくり黒ロングを攻略しようって話の構造があるわけです。『僕は友達が少ない』のほか『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』や『丘ルトロジック』や『新明解ろーどぐらす』、それに『変態王子と笑わない猫』の1巻もか。
恐ろしいことに全部人気作ですね。
さかのぼると涼宮ハルヒなんですかね?みくるはビッチキャラじゃないけどセクシーではある。黒ロングに極めて高い設定格を与えてラスボスに据え、格の低いぶんエロいサブヒロで間をもたすんだけど、ガードの固い黒ロングの対称形ってことで金髪/茶髪ビッチってことになる。
この→http://d.hatena.ne.jp/catfist/20101013/1290934939「世界をサスペンドするメインヒロイン」についての記事なんかも参照かな。
ただこの構造も、黒ロングの設定格の扱いが難しくて、日常コメディをつづけるためには、黒ロングはそのポジション上、目的を達成したり心の内を語ったり恋愛関係が進展したりする事がなかなかできない。なのでハルヒは遅筆になるし、丘ロジは黒ロングの人は現状ヒロインとしては成立してないし、変猫だと1巻時点で人間関係の問題にいちおうの蹴りをつけちゃったので黒ロング(ポニテ)は3位ヒロインに後退してます。
んではがないにおける黒ロング(途中でショートになったけど)の夜空。これまでは、実は幼馴染だとか何とか、最初にほのめかしてたネタを途中途中で消費して、それによっていままでメインキャラとして話の大筋に絡んでこれてたんだけど、それがそろそろネタ切れ。まだなにかしら大ネタを隠してる気もするけど。
萌えコメ展開をいくらでも投入可能な星奈に対して、夜空は語るべき物語がない上にキャラ格も上がりきってしまってるので変化のつけようがなくなってました。誰に対しても立ち位置がよい兄貴分になっちゃって。ドラゴンボール終盤のピッコロさんみたいなポジション。
なんですが、作者の平坂読は、この状態を7巻後半のイベントで夜空のキャラ格を爆下げさせることで救済したわけです。キャラ格が下がれば、その分上昇方向の物語力が働きますし、ほかのキャラとの絡みにも変化が付けられますから。
はがないで“いいはなし”なんか見たくもないし、だからってなし崩しに出来た人間になってくのも面白みに欠けますから、これがベストな回答だと思うんですが、しかしマジでそんなんするか、とビックリしました。ふつーな意味で「よくないこと」をメインヒロインにさせられるのがすげーです。でも生きてりゃ人間そういうことを経験するもんだし、自分としては好感度はむしろ上がりました。作者おそるべし。

「友達」のハードル

さて、このイベントにはまた別の意味合いが見いだせます。
先述もしたこの記事http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/7509024dd765b44a821fa0650246e1a9にもあるように、夜空の認識のなかでは、隣人部をつくったのはあくまで小鷹と接近するためであって、ほかの部員は邪魔者なんでしょう。とりあえずは。
ただ、じゃあ夜空は友達を必要としていないのかっつったら、程度の軽重はあるにせよ友達を必要としてない奴がエア友達を作ったりするわけないんで、まあ本来なら必要は必要なんでしょう。
んで夜空がそうしたいと思っているかどうかは別として、何で夜空にいま友達がいないかっていうとたぶん彼女が過度に倫理的であるからじゃなかろーかと思います。潔癖で誇り高く、頭でっかちで、友達ってものがよくわからない分よけいに大げさに考えている。
まわりの奴らを軽蔑していて、栄光ある孤立のドツボにはまっていて、そのぶん、かつて友誼を結んでおり存在を素直に受け容れられる小鷹が白馬の王子さま的に浮かび上がるわけッスね。
一方の星奈ですが、ギャル系のファッションはアレはメイドさんの見立てなので、本来的にはこいつはダダアマに甘やかされたお嬢様キャラです。マリアや小鳩となかみはそんな変わらんという。とくに小鳩は存外クラスの人気者であることがわかったのでなおさら状況が似てます。
んで星奈はいいとこのお嬢で、父親やメイドさんみたいなウルトラハイスペックなひとたちに甘やかされてきたので、やっぱり付き合う人間に対する要求がやたら高くなっているであろうと思われます。
そういう知性と感性の違いはあれ、おおむね似たもの同士の二人のような、友達概念のハードルを上げすぎて身動き取れなくなってるバカどもに、「友達を作ることを目指す部なので部員同士は友達ではない」ってことが明言されてる隣人部が必要とされるのではないでしょーか。
容姿や能力のスペックに関係なく切実な話だと思います。だからあいつらはやっぱりメンタルはリア充じゃないんですよ。
さてそういう状態を踏まえて、7巻後半の夜空の株爆下げイベントですね。これはいかにも周りを馬鹿にしている夜空らしい失敗でありましたけど、まわりの奴らはみんな愚かだと思っている傲慢かつ過度に倫理的な若者が、自分もまた愚かであることを自覚する、自己イメージを破壊されるという思春期の一幕であり、夜空本人と作品そのものにとってのターニングポイントであろうなーと思われます。

その他いくつか

んで。そのうすっぺらな建前に支えられた微妙なバランスを全部わかっていて、その上でそれを維持しようとつとめ、その崩壊を恐れているのが小鷹であります。
仮に、部員達がお互いを自身の「友達」にたる人物かどうか真面目に「評価」しはじめたりとかしたら、たしかに隣人部は崩壊するかもしれません。
一方、だからといってそんな不安定な状態をいつまでも続けてるわけにもいかんだろうと発破をかけてきたのが志熊理科。かわいそうにな!
理科は「残念ヒロイン」性を誰よりも体現しているキャラですが、残念ってなにかってったら恋愛物語の不全なわけですよ。それを体現してるからキャラが生きる。可愛い女の子だと思ってたらロボやおいの特殊性癖を披露して自慢げみたいな方向のもそうだし、また逆から、なんかふつうに恋する乙女として小鷹にアタックしたのに華麗にスルーされるときの反応!これが素敵。巨大フォントで吐血絶叫とか、顔文字でショボン(´・ω・`)とか、理科の描写は手を変え品を変えいろんな工夫を凝らしてくる平坂読の作風が存分に活かされてます。
んで小鷹にスルーされてリアクション芸ってのは、3位ヒロインだからこそやれることであって、だから止まった時間のなかでギャーギャーさわいでんのが作中的にもメタ的にも理科にとっていちばん楽しく利益になるはずなんすよね。それをあいつ頭いいから自覚してるはずなの。
それでもなお余計な口を利かずにはおれなかったのは、その程度のコストとリスクを背負う気になる程度には隣人部に素で入れ込んじゃったんだろーなーと思うわけです。最初は小鷹に用があるだけだったのに。志熊理科は報われるべきだよ絶対!
あと星奈は、あいつ根っからの金持ちで、いままで甘やかされるだけ甘やかされてきたそのぶんだけ、与えるべき愛に満ち溢れてるとこがいいですよね。小鷹に小鳩に夜空にと矢印がいっぱいでてるとこがカワイイ!抱えこんだ愛情が唸ってますナ。


以上が現状。
今後は、なんだかんだで夜空がメインヒロインなわけで、この頭でっかちで誇り高い女子をどうやってみんなで助けるか、あるいは落とすか、ってのが作品の構造としてはベタな流れなんでしょうけど、『ラノベ部』が大袈裟な物語の必要性を否定してたように、『僕は友達が少ない』もかまえや大袈裟さを嫌っているように思うし、まーよくわかりません。
だいたいラストの理科とのやりとりはどうせまたヒキだけだろ?と思うしな……。どうどうとヒキをスルーするのは一周まわって好感を覚えますよねー。