僕たちはSAOとかと戦わなくても別にいいんだ、という話
- 作者: 宇野朴人,竜徹,さんば挿
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2012/06/08
- メディア: 文庫
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19世紀くらいの文明レベルの異世界に精霊と魔術をぶっこんだ上で戦争!戦争!戦争!する話で、主人公は軍師タイプ、読むと「諸君私は戦争が好きだ」とか言いたくなる快作でした。
最近は本屋さんでラノベ棚に行ってみますと、アルデラミンに限らず『魔弾の王と戦姫』や『ノーゲーム・ノーライフ』のようなエンタメ異世界FTや『はたらく魔王さま!』みたいな魔王勇者もののラノベがわーっと平積みされてるのが目に入ります。FTは完全に流行った感ありますね。
そうした文庫レーベルにおけるFT作品は、近年続々登場しているWEB小説の書籍化を軸とした新規ソフトカバーレーベルと(そしてそこからさらに既存のソフトカバーレーベルへと)、シームレスにつながって大きなひとつのフィールドを作っているように見えます。
WEB発のソフトカバーレーベルは既存レーベル以上にFTだらけですから。というかまあこっちが震源地なので当たり前ですけれど。
その手の、アルファポリス、フリーダムノベル、エンブレ、MFブックスといったソフトカバーレーベルは、それぞれに毎月何冊かずつを書店のラノベ新刊平台へ送り込んでおり、ラノベ=文庫という図式ももはや崩れていますね。
もちろん文庫レーベルからも、電撃の『魔法科高校の劣等生』やGA文庫の『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』、あるいは新規レーベルのヒーロー文庫における諸作など、WEB小説の書籍化は行われています。
そうしたWEB小説と関連したFTラノベブームを代表する1作といいますと、まあやっぱ『ソードアート・オンライン』なんじゃないでしょうか。WEB発のFTであり、またブームの比較的はしりの存在であること、そしてその圧倒的な売り上げからしてみますと。
ラノベ史を代表する作品といいますと、広範なFTブームとさらに巨大な萌コメブームをそれぞれ代表するスレイヤーズとハルヒ、その間の試行錯誤の時期を代表するブギーポップで3大ラノベと勝手に認識しております。スレイヤーズが1990年、ブギーポップが1998年、ハルヒが2003年の刊行で、ハルヒのアニメは2006年ですね。
SAOがスレ・ブギ・ハルヒに並ぶ存在であるかまではなんとも言えないですけど、それに次ぐランクの学園伝記ブーム代表『灼眼のシャナ』には匹敵するのではないでしょうか。
さて、わたくしSAOのことは割と観念的な理由で気に入っておりまして。や、普通に読んでも面白いですけど。
- 作者: 川原礫,abec
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
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何らかのきわめて高い技能を修得し、一歩踏み込んだ世界の構造への理解をもっている主人公が、様々な土地を訪れては事件を解決するってのは、かつてのスレイヤーズとか魔術士オーフェンとか封仙娘娘追宝録とかといった富士見Fの旅FTを思い出させます。ゲーム文化の影響が強いってのもスレイヤーズ的っすよね。
しかもVR型のゲームを舞台にしたSFで、かつ電撃大賞から出てきている。それは『クリス・クロス』なのでは。高畑京一郎・古橋秀之・秋山瑞人・三雲岳人・川上稔・三枝零一あたりの初期電撃サイバーパンク組からもラインが引ける作品であります。
主人公のキャラ造形的にはオーフェン‐禁書ラインだし、エピソードごとに投入されるヒロインを禁書的にキープし続けて本妻固定型のハーレムになってるし、なんといいますかたいへんなラノベエリートだと思います。
そもそも、WEB発のライトFTってのが、特に「小説家になろう」とかの投稿サイト界隈における、ゲーム文化の影響やあまり作家性を打ち出さず読者に寄り添う姿勢、作者と読者の不可分さ、読者とのネタの共有や読者からの声の届きやすさといったメディアを介した作者・読者間の情報の交流などを見るに付け、これってもしかしてかつてあったものなのではないの?と思うわけです。90年代はじめくらいの時期のパソコンオタ・ゲームオタ向けの雑誌ですとかTRPG界隈ですとかで。当時自分はまだオタ心ついてなかったのでちょっと断言できませんけど。詳しい人プリーズ。
とりあえず最近読んだ中では『この世界がゲームだと俺だけが知っている』が、ゲーム世界に入り込んでしまった主人公が、なんかぷよぷよの子みたいなキャラデザの駆け出し冒険者の面倒を見つつ、ウラ技やバグ技を縦横無尽に駆使した無体なプレースタイルで冒険を続けていく話でして、『フォーチュン・クエスト』や『極道くん漫遊記』が好きだった人には非常にオススメです。
- 作者: ウスバー,イチゼン
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
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- 作者: 秋田禎信,草河遊也
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相容れないものだと思わなくてもいい、という話ですと最近『カゲロウデイズ』読み始めたんですがこれもそうだと思います。
- 作者: じん(自然の敵P),しづ
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もともとは僕もなんかうろんなものを見る目でカゲロウデイズが売れてるらしいというニュースを眺めていたんですが、最近うっかり「夕景イエスタデイ」のMVを見てしまいまして、ここに登場する榎本貴音がヤバい。本年度ベスト可愛い。
恋の歌ではありますけどどっちかって言うとコミュニケーションが苦手な子の思春期のなんかの歌なのがよいです。可愛い。目つき悪いのも、清水エスパルスみたいな変な髪型も、鉄雄‐我愛羅系のデコも、肩幅に足を開いて立ってる姿勢の良さも、襟が立ってんのも、スパッツ穿いてるのも、胸が絶壁なのも、細身で肩幅が広くて肩関節の可動域広そうな骨格なのもぜんぶ魅力的じゃないですかー。特に骨格。
でまあ、それをきっかけにカゲロウプロジェクトのMVをYouTubeでひと通り見て回ったんですけどまーこれがものすごい思春期のある種の昏いロマンチックなあれこれっぷりでヤバい。死にループの曲「カゲロウデイズ」、箱庭世界の終焉の曲「ヘッドフォンアクター」、嘘だけど系男子の曲「夜咄ディセイブ」、死んじゃった子の話「アヤノの幸福理論」で思春期四天王だと思いました。なお好きな曲は「夕景イエスタデイ」と「メカクシコード」。
で、結局これはなんなのかなと考え込んだんですが、表面的には電子生命みたいなサイバーなネタや『エア・ギア』みたいなお洒落ストリートギャングや『フルーツバスケット』みたいな異能者の救済テーマみたいな要素が散りばめられてるんですけど、わたくし思いますにこれって本質的には『ブギーポップは笑わない』ですよ。
高品質・高純度の思春期のロマンを、時系列シャッフルしたエピソード群として描くことで多感な中・高生の脳を揺さぶる。そういう面白さの構造においてカゲプロとブギーポップは共通していて、いまカゲプロにはまっているガキどもはブギーポップとかを読んでたあの頃の僕らなんです。中・高生の僕らがはまっていたものに奴らもはまっているに過ぎないのです。10年や15年で人類はそこまで変わったりせんのですよ。
なお小説の方も結構面白いと思いました。
さて、そんなふうにWEB発のラノベの読者との距離の近さを意識していると、比較して最近の萌えラノベ作家のプロフェッショナルぶりもそれはそれで凄い価値があることだなあと思えます。
『僕は友達が少ない』ですとか、最新9巻がめちゃくちゃ良かったですけど、とにかく情報をスリムにした文章、巨大フォントや変形段組といった表現の工夫、日常が様相を変えながら続いていくありさま、作者の平坂読の積んだ功夫には頭が下がります。プロフェッショナルなライトノベル作家としての研鑽と矜持を感じる作品です。
- 作者: 平坂読,ブリキ
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
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- 作者: 白鳥士郎,切符
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まあそんなわけでFTは流行ってますけど萌えコメも未だ強力でありますし、涼宮ハルヒの人気がアニメハルヒのEDダンスを踊ってYOUTUBEにアップするみたいな形で出現したことなんかを思うと現段階だとSAOの時代というよりはハルヒ‐SAOの時代なのかなーと思います。だいたい萌えムーブメント自体WEB上での反響効果によって成立してる気もしますし。
今後『僕は友達が少ない』や『やはり俺の青春ラブコメは間違っている。』(←八幡が可愛い)あたりが完結すると、あるいは本格的にWEBとFTの時代になるのかもしれませんが、なんにせよそいつらが理解不能のなんかではないということだけ憶えておけば無意味なイライラを感じたり雑なdisを吐いたりしなくてすむと思いますんでこのような記事を書いておくものであります。あ、もちろん雑でないdisはどんどん吐くといいとおもいます。以上でした。