2009年の漁果発表、あるいはジャンル混交俺ベスト10


並び順は関係あるような無いような。2009年に発表or発売されたメチャメチャ面白い作品のうち、完結済みあるいは上り調子のものを10作品集めてみました。どれもみなオススメなので気が向いたら読んでみてくれたまえ。

魔女の戴冠 ラ・ドルチェ・ヴィータ

魔女の戴冠―ラ・ドルチェ・ヴィータ (幻狼ファンタジアノベルス)

魔女の戴冠―ラ・ドルチェ・ヴィータ (幻狼ファンタジアノベルス)

たまらん表紙絵だな!サブキャラをメインにした番外編らしいです。本編は未読。
クールなメガネっ娘チェチリア・ヴァレンティーノは魔女学校きっての秀才なのだけど、彼女は誰にも言えない秘密、杏のタルト15万個分の借金を抱えていたのだ!という話。ケーキ屋の娘チェチリアが齢11歳にして借金を背負い込むところから、魔女学校での生活、そして借金発覚のとき知り合ったちょう美形の借金取りに5年がかりでとうとうたぶらかされるまでを描いたロマンチックコメディです。つかほんとにその男でいいんすかチェチリアさん!考え直せ!(余計なお世話だ)
スピンオフ作品だけに世界設定がしっかりしてんのが好感もてるし、数年越しのドラマってキャラクター小説だとなかなか出来ないのでその辺りもポイント高いっす。どっかが飛びぬけてるわけじゃないけどある種の完璧な作品だと思う。「ラ・ドルチェ・ヴィータ」という副題、“甘く蕩けるよーな人生”ってところだろうか、まさしくそんな話として出来上がってます。手の届くところにおいて、心のふるさととか呼びたいところ。

娚の一生

娚の一生 1 (フラワーコミックスアルファ)

娚の一生 1 (フラワーコミックスアルファ)

恋に疲れた30代ヒロインの前に50代Lv.100不良中年(いや初老か)があらわれて、ギャーなんだそれこれは惚れるだろ交通事故みたいなもんだ、と言うよな話。
展開のドラマチックさはそこそこで、しかしてウルトラスーパーロマンチック。だってさー、海江田醇51歳・著名な哲学科講師・関西弁・未婚・メガネ!なんだおまえどんなドリーム生命体。端的に言って萌えだよね。でも一方でヒロインの堂薗つぐみ女史もMMK(マジで悶絶するほど可愛い)くたびれ三十路黒ストロング娘であり、総じて読者的に抵抗しがたい話です。
はい、端的に言って萌え。交通事故みたいなもんだよね。

フープメン

フープメン 1 (ジャンプコミックス)

フープメン 1 (ジャンプコミックス)

週刊少年ジャンプで連載され、見事2巻17話で打ち切りを喰らった作品。
あらすじ!アメリカからの留学生ジョシュ・久慈・グリフィンJr.の通訳としてバスケ部に勧誘された佐藤雄歩は、ジョシュをはじめとしたチームメイトや女子マネ小金井さん、ちょっと適当な感じの為良監督などと知り合ううちに、バスケそのものに急速に嵌まっていく――、ってな話。
経験や身体能力がなくても、コミュニケーション能力と地道かつ継続的な努力で、やがてチームに欠かせない存在となり、最終的にそれなりの実績と確かな成長を手にするする雄歩の活躍は、まあジャンプの連載としてはどう考えても地味ではあります。ほぼ同時期に同じくバスケ漫画の『黒子のバスケ』がはじまった事もあって打ち切りと相成ったわけですが、しかしけっして内容で劣るわけじゃーありません。
意欲的なテーマと工夫ある演出、そして迫る打ち切りの恐怖が高いレベルで結びつき、雑誌掲載を追っていた当時はまさに毎週がクライマックス状態。最後までぶれることなく語られるべきものを語りきったが故に、短期打ち切りは逆に内容の濃縮と充実をもたらしてます。これはもう大勝利といって過言でないんじゃないでしょか。最終回の普通の人にヒ−ロー性がどう宿るかっていうひとつのありようが、また胸に響くんだな。埋もれさせてしまうには惜しい良作。

『マイナークラブハウス』シリーズ

マイナークラブハウスへようこそ!―minor club house〈1〉 (ピュアフル文庫)

マイナークラブハウスへようこそ!―minor club house〈1〉 (ピュアフル文庫)

ラノベよりのヤングアダルト小説。なのでヤングアダルトよりのラノベ、『とらドラ!』とか桜庭一樹とかが好きな人にはオススメ。ちなみに表紙絵は志村貴子
クラスに馴染めなかったり家庭のトラブルを抱えてたりする高校生が、学校の敷地の隅の林の奥のなんか目立たないところにある同好会の部室が固まってる文化部棟(俺の高校にもこういうのあったぜ)、通称マイナークラブハウスに集まってワイワイやる話。連鎖片思いとかもあるでよ。
まあなんだ、ヤングアダルトなので基本的に殺伐とした話ですが、一方で文化部コメディでもありラノベ的にもたいそう面白いです。主役格の畠山ぴりか(美少女。きゅうりが主食の野生動物)のキャラは強烈ですが、でも地味な男子勢の話がまた味わいがあっていい。12話の良い奴の顔した嫌な奴はまあやっぱりおおむね良い奴である話とか、15話の合宿の夜に2人の地味男子が非モテ騎士道に目覚める話とか。いや15話はそれが主題ではないけど。
ヤングアダルトラノベを両立してなお隙の無い、稀な逸品っす。

大正野球娘。

大正野球娘。 (1) (リュウコミックス)

大正野球娘。 (1) (リュウコミックス)

マンガのほうね。
アニメ化もされた神楽坂淳の同タイトルのラノベ(つかノベルス。徳間Edge)のコミカライズ。
あらすじ!時は大正14年、貿易会社の御令嬢小笠原晶子はいけ好かない許婚へのあてつけに学友の鈴川小梅を巻き込んで野球チームを結成する事を決意した。だがそのとき。同じく学友のメガネ女子・川島乃絵のメガネがあやしくメガネ光った事に気づいたものはだれもいないのであった――。
コミカライズで傑作てあまり見ませんけどこれはちょう面白いです。原作のジュブナイル小説っぽさを軸としつつ時折「人造投手鉄腕男子1号」などといった暴走を見せますが、基本的にはサンデー系文化部コメディのノリで流してます。演出の仕方が各話ごとにえらい違っててその引き出しの多さにも感心しますけど、なにより凄いのはそれを同じノリ・同じ雰囲気の中に落としこめてる作者の制御力すね。白眉は金属バット採用にまつわるエピソードをNHK『そのとき歴史が動いた』風にみせる11話でありましょーが、下級生キャラの実家へあてた手紙をナレーション代わりとした16話や、水着ビーチバレー&復活する「鉄腕男子2号」の13話なども印象に残ります。
あと女の子ちょうかわいいし!キャラデザに文句つけてる奴の目はナナフシだ!

『龍盤七朝 ケルベロス

秋山瑞人との偽中華シェアワールド企画「龍盤七朝」における古橋のターン。続ける気も終わらせる気もはっきり示されてるし、なによりそこそこ売れているようなので、これはちょっと古橋の時代が来るんじゃねーのー?とつい思ってしまう。出来がいいのは言わずもがな。太ゴシック巨大フォント芸がなかったのはちょっと残念だけど、このあたりはメディアワークス文庫の読者層に配慮したのだろうか?
あらすじ!ドロップアウトしたもと天才となに考えてんのかよくわからないデカブツのコンビがウダウダしているところに、ケモノみたいなストリートチルドレンが転がり込んできてトリオになるんだけど、その子供は実は亡国の王女であったのでした。そんでいい話やカッコいいバトルを盛り込みつつ話は進むんだけど、最後にやってくるラスボスが桁違いすぎて、え?これどうすんの無理じゃん?という気持ちになる。そんな話。
無茶すぎるラスボス螺ガンについてはいろんなとこで言及されてるんだけど、自分としちゃ2人組みの刺客“剪刀蛇”がすごくよかった。男女ペアのはずなのに見分けのつかない顔をしていて、息を合わせて繰り出す2刀であいての首をすっ飛ばす。二身一体で行動するので打てる手が多くて、これは死ぬだろって攻撃をしても捌ききってするする追いかけてくる。怖くてキモくてカッチョいい。
今後は古橋作品によく出てくる哄笑系の悪役とかも出てくんのかしら。もしかしたらヒロイン(←合法ロリ)がなったりしてねその手の悪役に。でもヒロイン以外は今のところ戦場を行く魔物ってほど脳が壊れて無いので今後もっと酷い事になるといいなーと思います。期待!
あ、秋山も書けよー。

秋田禎信BOX』

秋田禎信BOX

秋田禎信BOX

秋田禎信が自身のHP上で連載していた『魔術士オーフェン』シリーズの続編がたいそう評判を呼んだために出版される事になり、でもそれだけじゃつまらないというのでこれまで単行本未収録だった作品や“常軌を逸した”分量のおまけ書き下ろしを加えたファン垂涎の1冊、ではなくて3冊一箱。
内容!1巻はオーフェンの続編、2巻はエンジェル・ハウリングの本編後の番外編、3巻はちいさい魔女の子のパノを主役にした「パノのもっとみに冒険」や八王子ネタ馬鹿小説「リングのカタマリ」を含む未収録短編集、てな感じ。
えー、2巻のエンハウ番外編はマリオ派の俺大勝利な内容でした。しかし1巻はコギー派の俺大敗北なのでした。しかし稀に見る傑作である事は否定できず……。
WEB連載時のタイトル「あいつがそいつでこいつがそれで」改め「キエサルヒマの終端」がやはし白眉かしらん。描かれているのは本編終了後の社会情勢とキエサルヒマ外への移民計画、そして突撃娘クリーオウ・エバーラスティンの成長というか再生と言うかむしろヒロインとしての覚醒ですが、やーこんな素晴らしい続編てないっすよ。秋田禎信と言う作家がどれだけしっかりと世界と登場人物を描いてきたのかがわかります。納得がいくとかいうレベルでなくて、完全にそのまんま切れ目なくつながってる。そして変わっていってる。社会もキャラクター達も。
本編の20年後を舞台とする小説と言う体裁をした新設定の暴風雨「約束の地で」ともども、これだけの世界を準創造していながら、しかし「物語としてのオチと設定的なオチは全然次元が違う(ので、続きを書くつもりはない)」と言い切っちゃう秋田カッコよすぎるわー。
未収録短編も出来いいし、まあファンなら奪い取ってでも読むべきですよね。

マイマイ新子と千年の魔法

マイマイ新子と千年の魔法  オリジナル・サウンドトラック

マイマイ新子と千年の魔法 オリジナル・サウンドトラック

trick & tweet

trick & tweet

公式:http://www.mai-mai.jp/index.html
空想癖のある青木新子と転入生の島津貴伊子が、遊んで遊んで遊びたおす話、です。終盤に子供時代の危機イベントがかなりきっつめに起きるので、これをどう処理するかも見所。
基本的には不思議な事は起こらないけど、一種のファンタジーとして読解する事も可能だと思います。ファンタジー性って二つの方向性があって、“灰色のただの現実”に対して非現実に脱出するか、あるいは現実のものごとの向こうに色鮮やかなロマンを発見していくか、て枠組みで整理できます。んで、主人公の新子は後者の現実を色鮮やかに見つけなおす事にかけては一流で、それに伴って作品内の防府の町はその意味と価値を膨らませていく。なぜ泣いたのかよくわからないって意見があったけど、その辺も一因じゃないだろーか。演出や展開以前に個別の要素が持つ意味と価値をすごく上げてあるのです。ほんのちょっとした事で感情が揺さぶられるくらいに。
きっぱりと名作。映画館にかかってるうちに見ないのはもったいない!
あとkotringoの歌う主題歌「こどものせかい」がまたいい曲でな。世の中がキラキラして見えるようになるぜよ。まじでまじで。

テルマエ・ロマエ

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)

ローマの建築技師にして浴場設計の専門家ルシウス・モデストゥスが、新たな浴場のプランに悩むたびになんでかしらんけど昭和や平成の日本の風呂へとタイムスリップしてくる話。
ローマ市民としての誇りと浴場設計への熱意に溢れるルシウスが、日本の風呂文化にショックを受け、真剣に悩み真剣に落ち込むんだけど基本全裸、というズレたリアクションがすげえ笑えます。なにが面白いって、風呂はふつー苦悩するところでは無いわけですよ。でも浴場設計技師のルシウスは風呂に悩み風呂に癒され、風呂において評価され風呂で生計を立てている。なんと素晴らしきドラマチック人生in湯船!そう、この話に登場する人はみな、主人公ルシウスもローマ市民もハドリアヌス帝も日本の庶民も野生のニホンザルも、そして何より作者自身も、誰もが真剣に風呂を愛し、求めているのです。古代ローマ現代日本の風呂文化を丁寧に描き対比する事による、ものごとの価値の再発見効果もあいまって、読めば風呂への知識と愛情がたいそう深まることでありましょう!
一読して衝撃的におもしろく、再読して味わい深い傑作。ちょうオススメ。

ウォッチメン

アメコミ史上でもトップクラスの名作だそうで。そりゃーそーだろう。
普通の面白い本の5作分くらいの読みでがあります。すげえ密度が高い。そりゃ普通の漫画よりは高いけど(税抜3400円)、内容からすりゃ安いくらいですね。
登場人物たちには、“ヒーロー”というものの持ついろいろな側面が、平凡な善意、峻厳な独善、世の中を導くエリート、政治的な正しさ、超人的なパワー、自己顕示欲といった風に分解されたうえで極端に強調して割り振られており、ストーリーの中で異なる正義たちはすれ違い、時に激突します。でもサブエピソードの中に描かれる濃い人間描写はそうしたキャラクター性にもまったく負けていません。圧倒的です。
ちなみに超人的なパワーが「ドクター・マンハッタン」に集約されているため、他のヒーローはせいぜいちょっとすごい武器をもったよく体を鍛えている人に過ぎず、その上ほとんどのヒーローはその活動を政府によって禁じられています。
物語は、政治的に正しいヒーロー「コメディアン」の殺害で幕を開け、続く連続ヒーロー襲撃事件を、非合法に活動を続ける独善的ヒーロー「ロールシャッハ」が追いかけます。事件は他のヒーローたちを巻き込みながらやがて巨大な陰謀の姿を現し、ついには歴史的カタストロフが――!という流れに。
ちなみに好きなキャラは、政治的に正しければなにをやってもいいんだぜっと露悪的に振る舞うコメディアンか、他人に欲望されることにしか自らの価値を見出せない上にそれを自分の娘に引き継がせた初代シルク・スぺクター。いや、どいつもこいつも業が深い。
滑稽で残酷で、こんな酷い話もなかなかありませんが、これほど描かれているものの量と厚みと的確さを感じさせる酷い話はさらにまれでしょう。まだ飲み込みきれて無いところもあると思うけど、買ってよかった。たいへんな満足感であります。これがベストオブベストかなー。

そのほか

今年触れた作品だと、鴨居まさねをはじめて読みました。『君の天井は僕の床』『オぉジョオします』『ジベルばら色』の3作品。この1作を!って推したくなるのともまたちょっと違うんだけど、すごく面白い。一撃でファンになった。ドラマチックではなく、ロマンチックさも地に足が着いたレベル、でも些細で現実的な日常エピソードを重ねるなかに見つかる生きるに値する人生のロマンチックさ、みたいな?早いとこ『雲の上のキスケさん』も探すぜい。
少年マンガだと『ワンピース』の規格外の盛り上がりに触れないのは嘘だと思うし、ジャンプの新連載『賢い犬リリエンタール』、サンデーでは相次いで最終回を迎えた『お茶にごす。』『トラウマイスタ』『ゴールデンエイジ』『お坊サンバ』といった良作群、マガジンでは地味に化けてきた感のある『ベイビーステップ』が印象に残る。あとチャンピオンは40周年記念企画も当たってたし、連載陣も総じて好調だったよな。
林トモアキの『戦闘城塞マスラヲ』も早売りで08年の暮れに読んだのでなければ入れたかったところ。『乱と灰色の世界』『ヘルボーイ ゴールデン・アーミー』『バ・バ・ホテップ』『ブラタモリ』、それに『ヱヴァンゲリオン新劇場版:破』もあったねえ。


さらに加えまして、08年公開の作品で、評判聞いてあとから家でDVDで見たんだけど、『ゼア・ウィル・ビーブラッド』は本当に良かった。

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド [DVD]

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド [DVD]

20世紀初頭のアメリカを舞台に、石油キチガイ、というよりむしろ石油シグルイと言うべき精神を持った石油長者ダニエル・プレインビューの半生を描いた作品。
巨大な欲望に突き動かされて障害を撥ね退けながら突き進み、そのなかで人格の表層の申し訳程度の人間性までもがゴリゴリと削り取られていくプレインビューの姿と、バーンと広がるだだっ広い荒野があわせて描かれ、製作者たちが世の中をどんなモンだと思ってるのかが浮かび上がってくるように思われます。そしてラスト、かつて石油の次に愛していた義理の息子ともとうとう喧嘩別れしたプレインビューのもとに、お互い大っ嫌いなもの同士、不倶戴天の敵であるキリスト教系カルトの若い神父が訪れ、そして惨劇が起こります。ものすごくテンションの高い惨劇が。もはや我々はぽかんとするしかない!
骨太で衝撃的で、ぶっ飛ばされたみたいに心に残る映画でした。おととしの作品でなけりゃ一番だったかも。


こんなところかしら。つかれた!今年もよい出会いがありますように!