読もう!ニンジャスレイヤーとあわせておすすめなライトノベル

ニンジャスレイヤーのアカウントをフォローしてる人も4万人を越えた今日このごろですがみなさんどうおすごしでしょうか。


ニンジャスレイヤーのファンの人におすすめなライトノベルをいくつか選んでちょっと紹介も付けてみました。「他にこういうのもっとないの?」と思ってる人のご参考になれば幸いです。
手に入りにくい本もいくつかありますが、それは商品の回転の速いラノベの宿命でもあるのでAmazonなり図書館なりを利用してみてください。


ブラックロッド (電撃文庫)

ブラックロッド (電撃文庫)

呪術がサイバーパンク的に高度に発達したif未来、積層殺伐都市ケイオス・ヘキサを舞台とした3部作。
魔導特捜官ブラックロッドと私立探偵ウィリアム・龍が怪事件を追う『ブラックロッド』、吸血鬼が連鎖的に発生するヴァンパイア禍を背景にした墜落系ボーイ・ミーツ・ガール『ブラッドジャケット』、ケイオス・ヘキサ崩壊の日のしっちゃかめっちゃかを描く『ブライトライツ・ホーリーランド』の3作がそれぞれに面白いです。
現代・近未来風の異世界ラノベでもよくあるジャンルですが、そのなかでも用語・設定の出来がぶっちぎりに上手くてオシャレです。ニンジャスレイヤーもしばしばそうですが、馬鹿だ馬鹿だと思ってるといちいちきっちり元ネタがあるような話は良いですね。
異形の言葉によって描写される異形の都市との新鮮な出会いは、ネオサイタマという都市に初めて触れた時と同じ興奮を与えてくれるでしょう。


ブギーポップは笑わない (電撃文庫 (0231))

ブギーポップは笑わない (電撃文庫 (0231))

キックアウト、ラストガール、エニグマ、グッドタイム、サファリングといった学園忍殺シリーズに特に顕著ですが、“起承ニンジャ結”という忍殺における物語の流れの中で、起承にあたるモータルの若者の日々と心情の描写がどれほど重要であるか、ファンのみなさんであれば良くご存知であると思います。
ブギーポップシリーズはラノベ史上に燦然と輝くヤングアダルト学園伝奇の名作であり、まずこの鬱屈した青春と茫漠とした世界と軋む日常の描写がすごい良いです。
そしてその上で、日常から踏み外してしまった若者たちが一瞬だけ出会う怪異、正体不明の陰謀組織「統和機構」の走狗である合成人間たちの屈折した内面や、女子高生の間で広がる都市伝説に語られる死神ブギーポップのワイヤーアクションがまた渋カッコいい。
学園忍殺の面白さは、主に学園伝奇としての秀逸さにありますから、同じ感覚を読めるという点ではブギーポップは特におすすめできると思います。


コップクラフト (ガガガ文庫)

コップクラフト (ガガガ文庫)

超空間ゲートによって地球と結ばれたソード&ソーサリーな異世界レト・セマーニ、両世界の交流地点として発展を遂げた都市サンテレサ市を舞台に、サンテレサ市警特別風紀班の刑事マトバとレト・セマーニから派遣された女性騎士ティラナの活躍を描くバディもの。
くたびれカッコいい中年男性を主人公とし、擬洋ドラの洒脱さをもって描かれる都市の生活と犯罪捜査ドラマが実に魅力的。ブギーポップは学園忍殺と比較しましたけど、こちらはフジキドやガンドーや49課を視点人物とした話と方向性が似ています。
ちなみにマトバをはじめとしたサンテレサ市警の刑事たちの多くが遭遇初期にレト・セマーニとの間で起きた戦争への従軍経験者であり、このあたり初期シックスゲイツを連想したりもしますね。


耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳 (ファミ通文庫)

耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳 (ファミ通文庫)

ジャンルとしてはニンジャスレイヤーとは全然違うんだけど、ニンジャスレイヤーと同じようなスゴさのある作品を読みたい人向けにこちらを。
西尾維新の『化物語』みたいなHENTAI饒舌一人称の青春小説なんですが、舞台が旧共産圏風の異世界であるという点が普通でない。
異世界FTなのに他作品のパロディなんかをポンポン放り込む一人称叙述と世界各地から集まった学生たちによる異文化コミュニケーション学園生活とでもっともケオティックな1巻、ギミックの劇中劇と物語の噛み合わせがバカウマで後半の恐るべき盛り上がりに読んでてひっくり返る2巻、そして学園生活の点景と恋のゆくえを描くなかに切れ味鋭いヨタと静謐な美しさが満ちた3巻、全3巻のそれぞれがそれぞれの方向に面白いです。
ネタ・ヨタと情景描写が不可分に結びつき、実在感ある無二の異世界が立ち上がってくる感覚は忍殺におけるネオサイタマ描写にも見られるものであります。
また、語り方のむちゃくちゃさの奥にあるキャラクターとストーリーの魅力に気づいた後、でもやっぱり作品の言語センスにこころ奪われなおしていく、与太に回帰していく楽しさもニンジャスレイヤー的であると言えるでしょう。


龍盤七朝 DRAGONBUSTER〈01〉 (電撃文庫)

龍盤七朝 DRAGONBUSTER〈01〉 (電撃文庫)

武侠小説風の架空の世界とその七つの王朝の歴史を描いていく(予定)のシェアードワールド小説。
先に挙げた『ブラックロッド』の古橋秀之と『イリヤの空、UFOの夏』などで知られる秋山瑞人のコラボレーション企画でありまして、二人の才人が互いに影響を与えつつそれぞれに面白いという点で、ブラッドレー・ボンド&フィリップ・ニンジャ・モーゼズ両氏の手によるニンジャスレイヤーと同様の作品であると言えるでしょう。
加えて『龍盤七朝 ケルベロス』『龍盤七朝 DRAGONBUSTER』両作品ともに、インフレイムとも同等と言える最高水準の文字媒体による戦闘描写を目の当たりにできるという点でも極めておすすめです。


この世界がゲームだと俺だけが知っている 1

この世界がゲームだと俺だけが知っている 1

辺境の老騎士 1

辺境の老騎士 1

最後に同時代の作品として、内容面ではとくだんニンジャスレイヤーっぽくはないものの、忍殺と同じくWEBで発表されたものが人気を博しエンターブレインのソフトカバーで書籍化した作品を2作。
『この世界がゲームだと俺だけが知っている』はゲームが現実と化した異世界をバグ技・裏技を武器に駆け抜けるライトFTで、『フォーチュン・クエスト』や『極道くん漫遊記』や『スレイヤーズすぺしゃる』みたいなハチャメチャさがあり、すげえすげえ楽しい作品です。
一方、辺境諸国を旅する老騎士の活躍とグルメを描く『辺境の老騎士』は、『剣客商売』と『三銃士』をあわせたような作風のライトFTであり、奇抜な設定をあえてもりこまずゆったりと進んでいく物語が魅力です。
エンターブレインのソフトカバーはログホラやオバロも面白いので編集の人は有能であることだなあと思いますね。

好きなライトノベルを投票しよう!! 2013年下期に投票

【13下期ラノベ投票/9784101240589】
表題作は雑誌掲載時には「うおー!十二国記の世界に帰ってきたぞー!」って思ったものです。4篇ともに辛い時代を生きる人々をいろんな視点から書いた作品で、十二国記らしいですね。


【13下期ラノベ投票/9784047290112】
不眠気味の高校生ヨリマサと同じクラスの夜間部に通う吸血鬼の冴原彩萌の、すれ違いながら接近する時間、日常に潜む謎、熱ぼったく濃密な真夏の夜の恋を描く。読み終わってみると『ある日、爆弾がおちてきて』に近いものを感じました。


この世界がゲームだと俺だけが知っている 2

この世界がゲームだと俺だけが知っている 2

【13下期ラノベ投票/9784047290419】
バグと裏技に精通した主人公は、ゲーム世界においては異邦人にしてマタギと言えますね。2巻収録のNPC女子視点の中編が絶品すぎてとても言葉に表しきれない。


僕は友達が少ない 9 (MF文庫J)

僕は友達が少ない 9 (MF文庫J)

【13下期ラノベ投票/9784840151290】
ぱっと見テンプレなキャラクターにリアル寄りの人間理解を適用するバランスが独特というか、ひたすら馬脚をあらわし続け、その度に他にない魅力を獲得してきた夜空がただただ愛しいっす。
 

【13下期ラノベ投票/9784047290952】
石川博品の「地下迷宮の帰宅部」を収録。地獄への道は真摯さで舗装されているとでも言うか。大傑作でした。


巡ル結魂者1 (講談社ラノベ文庫)

巡ル結魂者1 (講談社ラノベ文庫)

【13下期ラノベ投票/9784063753219】
自然体にイケメンな優等生が親戚のおばちゃん的メンタルの美人なおねえさんに取り憑かれた上に異世界に引きずりこまれ、女子高でキャッキャウフフしつつ魔法合戦する話。主人公のスマートさとサバけた女子と工夫ある魔法描写が楽しい。


【13下期ラノベ投票/9784864721820】
動乱の時代を描いてきたシリーズも大詰めですが、いろいろ差し置いて主人公の片割れマヨールと婚約者イシリーンのエリートカップルが将来のこと、仕事のこと、家族ことを話し合いながらイチャつくのがすごい悶えます。近年の主人公キャラの中では一番好きです、マヨール。


【13下期ラノベ投票/9784047291768】
悪党とキチガイが徒党を組んでダンジョンに突撃したらボスが3体同時に出現して地獄、という話。ひたすら戦っているのでたいへん楽しかったです。


【13下期ラノベ投票/9784086307673】
なんつーか、物語という以上に異世界召喚の大魔術という感じ。作者は後宮を描いてみたいとは思ってたらしいのですが、そこに野球をくっつけたのはやっぱダジャレが出発点なのではないでしょうか。けれど石川博品には、ヨタを紙風船みたいに弄びながら膨らませ、それがいつしか確かな存在感をもつ異世界を形作っていく魔法的な手際があり、読んでると永遠を閉じ込めたような一瞬とそれをも押し流していく時間の流れを目の前に出現させられて泣きます。


ニンジャスレイヤー 聖なるヌンチャク (キョート殺伐都市 # 4)

ニンジャスレイヤー 聖なるヌンチャク (キョート殺伐都市 # 4)

【13下期ラノベ投票/9784047292611】
すげえ面白い邪悪ニンジャがバンバン出てきてバンバン死ぬ!もうほんと死ぬほど面白いですねニンジャスレイヤー。

悪党!悪党!悪党!/ニンジャスレイヤーの敵キャラを語る

ニンジャスレイヤー 聖なるヌンチャク 【ドラマCD付特装版】 (キョート殺伐都市)

ニンジャスレイヤー 聖なるヌンチャク 【ドラマCD付特装版】 (キョート殺伐都市)

「えー、ここ数日は冬も本気出してきやがったなって感じの厳しい寒さで、貼るカイロがないと駅までたどり着くことも困難なほどですが、さてそんな本日のテーマは話題のTwitter小説『ニンジャスレイヤー』の敵キャラクターです。他作品のキャラとかにたとえながら説明するんで」
「キミたとえ話すきだよね」
「脳がそういう構造になってるんだと思います。じゃあはじめますね」
「どうぞどうぞ」

ソウカイヤとシックスゲイツのゆかいなクズたち

「ニンジャスレイヤーって作品は基本的には、孤独なヒーローが悪の巨大組織と戦う特撮ドラマ的な話なんですよ。んで、現在第3部が連載中なので当然ながら絶賛抗争中の悪の巨大組織も3つ目に突入してる」
「ほほう」
「第一部ネオサイタマ炎上の主要な敵組織はソウカイ・シンジケート、通称ソウカイヤでした。ここはカリスマ的ワンマン経営者ラオモト・カンに率いられたネオサイタマ裏社会で最大の犯罪組織で、ネコソギ・ファンド社を表看板として使いながらヨロシサン製薬やオムラ・インダストリといった暗黒メガコーポレーションと癒着しネオサイタマ経済を牛耳っていました」
ネコソギ・ファンドの社主にしてソウカイヤの首領ラオモト・カンは物欲・名誉欲・権勢欲にあふれた俗物極まりない50代くらいの雰囲気の禿げたオッサンで、ビジネス第一ですが本人のカラテもすごい」
「カラテのすごいハゲ…平八?」
「どっちかと言うと餓狼伝説ギース・ハワードですかね?」
「あー」
「七種類のニンジャソウルをその身に宿した巨魁ラオモト・カンとの最終決戦はめちゃくちゃ盛り上がります」
「能力バトルの強敵の王道だよね、複数能力者」
「そうそう。そのラオモト・カンの懐刀がニンジャスレイヤーの仇敵ダークニンジャことフジオ・カタクラで、こいつは第2部・第3部にも出てきます。こいつはこいつでいろいろ出生の秘密とかを抱えてて、もうひとりの主人公として物語を牽引するようになります。ええと、セフィロスだと思ってください」
「ええ、セフィロス?FF7?」
「ええ。まあ、ダークニンジャが己の対決すべき宿命を自覚するのは第2部中盤になってからで、第1部時点では単なる敵側の強力なエージェントって以上の存在ではないですけど。その分、ラオモト・カンとダークニンジャをのぞく第1部のメイン敵となっているのがソウカイ・シンジケートの威力部門シックスゲイツに所属するニンジャ達です。で、こいつらが!実に!素晴らしい!」
「力説だね」
「ソウカイ・シックスゲイツってなんなのかっていうと要するにるろうに剣心十本刀みたいなエリート戦士団です。トライガンのGUNG-HO-GUNSでもいいですけど。でもボスとの距離の近さを考えると十本刀の方がより近いですかね。で、僕が十本刀で一番好きなのは飛翔の蝙也なんですよ。さらに言うとトライガンガンホーガンズで一番好きなのはマイン・ザ・EGマイン」
「EGマインてあの瞬殺されたやつ?」
「そうそう」
「ちなみに俺はナインライヴズが好きかな」
「ああナインライヴズもいいですよね。あれが出てくる内藤泰弘はどうかしててすごい」
「うん。ああごめんね続けてください」
「シックスゲイツのどこがいいってまず構成メンバーのみながみな、揃って人格が最低なんですよ。安心のクオリティ。少年マンガの第一話に出てくるチンピラなみにシンプルなクズです。一般人を見れば拷問しようとするし仲間を見れば陥れようとする。でも1エピソード使いきりの悪役はそのくらいわかりやすいほうがいいと思うんですよ。わかりやすくて、しかも面白いってのが理想」
「まあGUNG-HO-GUNSはわりとまともな奴が多いよね」
「しかもそんなに強くないんですよねシックスゲイツ。そのへんも十本刀やGUNG-HO-GUNSっぽい。シックスゲイツのニンジャは、強さはまあまあ程度だし人格的にはクズです。でもラオモト=サンには忠実で、任務にはプライドをもって臨んでいますし、それぞれに戦闘スタイルが特徴的で面白いし、カラテの鍛錬をよく積んでいることは疑いない。残念ながらニンジャスレイヤーがバカ強いので正面から戦うと歯が立たないことも多いですが、プロの戦闘者として意地を見せる奴もいる。プロフェッショナルの意地という点ではジョジョ5部の暗殺チームも連想させます」
「ああプロシュートの兄貴」
「いやイルーゾォとかホルマジオとか」
「マン・イン・ザ・ミラーとリトルフィートか。地味だなァ」
「そのくらいのキャラ格の連中なんですよ。そういうのがずらずら出てくる。構成メンバーは6人なんですが負けて死ぬと下位構成員から補充されるのでぜんぶで20人くらい出てきます」
「シックスゲイツのもう一つの特徴としてだんだん弱くなるんですよね。ニンジャスレイヤーにどんどん殺されてくもんだから、ソウカイヤ本拠地での最終決戦の際のシックスゲイツは半数以上がサイボーグ手術で下駄をはいた中堅下位程度のニンジャで、古参メンバーがそれを嘆きつつ奮起したりします。ニンジャスレイヤーは時系列シャッフルで語られる作品ですけど、第1部の全貌がわかってくるとシックスゲイツという組織がたどった歴史がおぼろげに浮かんできて、これも非常に味わい深い。シックスゲイツがニンジャスレイヤー第1部の真の主役だったと言っても言いすぎじゃないと思います」

ザイバツグランドマスターのみなさん

「ええと、次は第2部の敵組織の話をします。第2部キョート殺伐都市でニンジャスレイヤーと争うのはザイバツ・シャドーギルド。漢字で罪罰影業組合。あの、こんな風な」
「罪・罰・影と。ダジャレなのね」
「シャレてるんですよー。単純な規模ではソウカイヤをはるかに上回る巨大組織で、表の顔は持たない完全な秘密結社。キョート共和国を裏から支配しています。ちなみに忍殺のキョートは日本から独立した国家になってんですよね」
「組織の首領はロード・オブ・ザイバツですが、第2部を通じて主要な敵としてニンジャスレイヤーの前に立ちはだかるのはその下の大幹部、グランドマスターです。グラマスはね、ちょっとすごいですよ」
「ふんふん」
「9人が登場するザイバツグランドマスターのうち大参謀パラゴンと市場操作&ネットセキュリティ担当のヴィジランスを除く武闘派7名は全員がラオモト・カンに比肩する強大なニンジャでして、ただならぬオーラと洗練されたニンジャ装束をまとったナイスミドル達、まあつまり十傑集なんだと思ってください」
「おお出た。十傑集」
「どいつもこいつもすさまじく強いですし、最後の最後までキャラ格が落ちる奴がいませんでした。ほんとみんな強いし怖いし悪いしカッコいいんですよ。ヴァニラ・アイスみたいな消滅系即死能力者とかガリアンソード使いの戦闘狂とかカラテ・ミサイルを極めてる奴とか」
「カラテ・ミサイル?」
「あ、ニンジャスレイヤーでは波動拳かめはめ波みたいな飛び道具を総称してカラテ・ミサイルと呼んでます。威力も利便性も高いけど基本的に燃費が悪いのがカラテ・ミサイルの欠点とされてるんですけど、グランドマスター・パーガトリーは血中カラテ…つまりMPが突出して高いのでいくらでも撃てるんですよ」
(また謎なワードが…)
「ワンマン社長のラオモト・カンのもとで基本的には一致団結していたソウカイヤと違って、ザイバツではグランドマスターたちが派閥を作って暗闘を繰り広げています。グランドマスターの下でザイバツの階層的位階制度を構成している、それぞれなりの野心や頑張りや悲喜こもごもを抱えたマスター位階のニンジャやその他の一般ニンジャたちが、みんな結局はより上位のニンジャによるママゴトめいた政治闘争の駒に過ぎないというのが、ザイバツニンジャ全員に共通する悲劇性でありニンジャスレイヤー第2部の物語の特色となっています」
「なお十傑集を率いてたのはバビル2世でしたけど、ザイバツの首領ロード・オブ・ザイバツは部分的に一般に開放されて観光名所にもなっているキョート城の本丸に住んでいる老人で、古き歴史を誇るザイバツの支配者にしてショーグン・オーヴァーロードの末裔、ザイバツにおける権威であり象徴なんですが…」
「…それってなんかあれっぽくない?千代田区の…」
「ビジュアルがともだちです。20世紀少年の」
厄いな!それなんかあるでしょ!?あえて聞かないけど!」
「まあザイバツってのはそんなとこなんですが、第2部にはもう一人紹介しなけりゃならない悪役がいまして、それが死刑囚に強力なニンジャソウルが憑依した無軌道大量虐殺ニンジャ・デスドレインです。『ダ―クナイト』のジョーカーと『ブロブ』の人食いアメーバが合体したような奴ですね」
「なにそれ怖い」
「さすがに単独ではバットマンシリーズにおけるジョーカーのキャラ格には及ばないですけど、キョートという都市の生んだ悪の精粋・混沌の体現としてザイバツ支配にケンカを売ったこと、それからこいつ邪悪なわりに妙にさびしがりで無軌道大量破壊ニンジャ・ランペイジという相棒やストックホルム症候群めいて付き従う無表情少女アズールを道連れとして得たこと、これらによってぐんとセクシーな魅力を放つキャラになってるんですよねー。悪役が属するコミュニティがまるごとコンテンツとして面白いのは忍殺の売りだと思いますね」

オシャレ悪の組織アマクダリ

「最後に第3部不滅のニンジャソウル。敵はアマクダリ・セクト、漢字で天下って書きます、はい。まだまだ連載途中で明らかになっていない点も多いですが、ここは既存の犯罪組織に代紋を貸してどんどん取り込んでいくフランチャイズ型の悪の組織であり、またその中核であるアマクダリ・アクシスとその幹部アクシスの十二人もネオサイタマの主要な陰謀屋たちの寄り合いのようなものであるようで、ソウカイヤやザイバツよりもずっとファジーな組織となっています。アクシスの十二人については要はゼーレだと思ってください」
エヴァの?」
「はい。ただしこのゼーレは最終的な決定権がネルフの方にあって、かつネルフの司令官がゲンドウじゃなくて碇シンジです」
「ああシンジ君パイロットじゃなくて司令なんだ?」
「まあ性格はシンジ君とはまた違いますけどね。ラオモト・カンの遺児ラオモト・チバを旗印としてソウカイヤの残存勢力を結集し、そこから勢力を伸長させたのがアマクダリでして、ラオモト・チバは帝王学を修めたオカッパあたまの美少年、まだまだ幼くて作戦が失敗するとキレてわめき散らしますけど、時には王者の器の片鱗を見せることもあります。チバ君の傍らにはアガメムノンっていう美形のキール・ローレンツみたいなやつが補佐について実権を握っており、この辺の組織内の権力争いも今後どうなるのか期待されます」
「アマクダリの面白いところは2つあって、まずソウカイヤやザイバツよりもさらに人間社会との癒着が進んでます。そもそもトップのラオモト・チバはニンジャじゃないんですよね。また、アクシスの十二人にはネオサイタマ知事の秘書や軍の顧問、宗教界の実力者といった表の世界での影響力を持つ人物が多く含まれてます。その象徴的な事例として、現在アマクダリの主導によってネオサイタマとキョート共和国は戦争をしてるんですよ。現在のニンジャスレイヤーは戦時下のネオサイタマを描いてるんです」
「へえ!そいつはすごいね」
「戦争の危機からそのまま開戦したときはちょっとびっくりしました。でも原作者のボンドとモーゼズは日和ったりしないのです。んで、アマクダリの2つ目の特徴がその設定のオシャレさ」
「オシャレっていうと?」
「そもそもアマクダリってネーミングが、合法・非合法問わずネオサイタマのさまざまな組織にエージェントを派遣…つまり天下らせて影響力を拡大していくセクトの基本方針と、アマクダリ・アクシスを漢字表記すると天下中枢になるって点、そして少年君主ラオモト・チバに雷撃の使い手アガメムノンが付き従う構図がニニギとタケミカヅチに重なるという天孫降臨神話のモチーフとのトリプル・ミーニングになってるんですよね!これはオシャレだ」
「ほほう。それはカッコいい
「チバがニニギとすれば、ニンジャスレイヤーの身に宿るナラク・ニンジャはスサノオに相当するのではないかとか、愚連隊サークル・シマナガシの連中はヒルコにあたるのではないかとか、今後この日本神話モチーフがどう展開していくのか目が離せないのです」

まとめ

「この辺がニンジャスレイヤーの現状ですね。ちなみにニンジャスレイヤーは第4部の存在が明らかにされておりまして、ニンジャ名鑑っていうニンジャ紹介コーナーによって先んじて紹介されている第4部登場ニンジャから推察するに第4部の敵はリアルニンジャと呼ばれる人知を超えた怪物たちと、彼らによって構成された組織ダーク・カラテ・エンパイア、そしてニンジャにとってのニンジャ存在…すなわちヌンジャであるニンジャの祖カツ・ワンソーなのではないだろうかと予想されます」
「なんかもうわけわかんないなそれ」
「まあ、まだなんもわかんないですけどねー」
「ふーむ。ちなみにベスト悪役は誰だと思うの?」
「あー、いい悪役いっぱいいますから決めづらいですけどねー。でもあえて決めるならクローンヤクザかなー」
「クローンヤクザ?」
「暗黒メガコーポのヨロシサン製薬が伝説的ヤクザの遺伝子をもとに開発したバイオ兵器という設定で忍殺の1〜3部を通して登場するんですけど、ビジュアルはアクション映画とかにおける黒服、立ち位置はショッカーの戦闘員、設定はスターウォーズクローントルーパーというまれにみる傑作ザコ敵です」
「おお…。いや、じゃあニンジャの中だとどうなの?」
「うーん、シックスゲイツの空を飛ぶ陰険野郎ヘルカイトか、狂人にして侠客であるベトコンニンジャのフォレスト・サワタリか、けなげビッチのパープルタコ姉さんか、最初にして最強のグラマスだったイグゾーションか…。あ、ちなみに忍殺は出し惜しみしないので最強の敵が最初に出てきます」
「それはそれは」
「でもいちばん好きなのはバイセクターかなあ。過去に出てきたとあるニンジャが8割サイバネ化して復活した再生怪人で、こいつが登場する第3部の“サツバツ・ナイト・バイ・ナイト”は忍殺におけるベストエピソードだと思います。うーん、それにワイルドハントとかボーツカイとかアースクエイクとかモスキートとかも…」
「なるほどねえ。ちなみに主人公を例えて説明するとどんなやつなの?」
「ああ、暴走するエヴァ初号機パイロットがアメコミのパニッシャー、みたいな感じです」
「怖いなそれ!」


✩関連リンク ニンジャスレイヤー公式アカウント
           ニンジャ名鑑SpecialEdition

2013年面白かったものメモ

メモ程度で。

13年は石川博品の当たり年であり、夜闇に濃密なアトモスフィアがけぶる真夏の恋『ヴァンパイア・サマータイム』、ヨタとしか思えないタイトルを膨らませながら信じられないくらい確かな実在感のある別世界を出現させる『後宮楽園球場』、それに部活アンソロジーに書き下ろした短編「地下迷宮の帰宅部」がまた圧巻の出来栄えでした。


ジブリの両巨匠の新作。せっかく同時代に生きてるのだから映画館で見とこうかなと思って見に行ったところすげえ面白かったですね。両作ともにスタッフの力量を生かしつつキャラクターや表現に過去作にない工夫があり良いです。


この世界がゲームだと俺だけが知っている 1

この世界がゲームだと俺だけが知っている 1

web発のファンタジーは今ばんばん書籍化されてますけど中ではこれが一番好きです。ゲームの世界であることを前面に押し出してハチャメチャをやる作風は、フォーチュンクエストや極道くん漫遊記あたりと方向性が近い感じ。2巻収録の書き下ろし中編が絶品でした。
 

女子バレー部でエースの幼馴染を中学生男子の視点でフェティッシュに追いかける作品。デカ女萌え。大ゴマでばーんとフェティッシュな描写をしてくるんだけど、見開きの時は画面の広さを活かしてふたりを取り巻く空気を描写していてこれがしみじみと良いっす。


巡ル結魂者1 (講談社ラノベ文庫)

巡ル結魂者1 (講談社ラノベ文庫)

秋田禎信の新作。異世界に転移した高校生が現地の事情に巻き込まれ系の話。枯れたベテランのてなぐさみとかじゃなくてエンタメとして充実しつつ、女性陣の人格や魔法の描写に洗練と積み重ねを感じます。とくに魔法描写は見ものですよ。


ゴッサムシティのB級ヒーローの活躍を描くシリーズ。アクション&バイオレンス、時には沈鬱な展開もありますが基本的にはカラッと痛快で、ユーモアを忘れず、多彩なエピソードがあって世界の奥行を感じます。犬溶接マンも出る!


ひきだしにテラリウム

ひきだしにテラリウム

むちゃくちゃにハイレベルなショートショート短篇集。どの話もいいんですけど、猫が化粧をする「かわいくなりたい」、食べたメシの説明をしようとしているもののまったく伝わらない「すごい飯」、とりわけ中学生達がうさぎ国の歴史の深い闇にふれる「遠い理想郷」がよかったです。


PVは2012年から公開されてましたけど本編は今年から。アメリカ製のCGアニメで、全寮制魔法学校を舞台にしたアクションもの。とくに目もとの演技の豊かな感情表現と、おっそろしくキレのある超絶かっこいいアクション、さっぱりした性格のキャラたちが魅力。CGの女子はかわいいなあ!


メカクシティレコーズ

メカクシティレコーズ


女子かわいいという点では13年ベストカワイイは「夕景イエスタデイ」の榎本貴音でした。カゲプロの楽曲群の一作なので今年の作品と言っていいのかは微妙なところですが。狷介な女子の不器用な青春の一幕であり、目つきの悪さやなんか変な髪型や華奢だけど肩幅広くてしっかりした骨格や、そのすべてが素敵で愛おしいです。


そのほか、今年はダイアナ・ウィン・ジョーンズの空中の城シリーズの3作目『チャーメインと魔法の家』や、十二国記の新作短編も出ましたし、いくえみ綾の『プリンシパル』の最終巻も素晴らしかったです。
普通に継続してる作品だとまずは『僕は友達が少ない』の9巻の大きく変化はしたものの前進や発展と言えるのかは謎な、ヘンテコな人間関係がたいへん好印象でした。あとは『魔術士オーフェン』『ニンジャスレイヤー』『まりかセヴン』『ばらかもん』『大砲とスタンプ』あたりの新刊もよかったですね。


今年は新作も追いつつ積み本も崩していきたい所存です。がんばるぞー。

2013年のライトノベル表紙ベスト5

先日twitterで呟いた内容ですがこっちにも書いとくべきだと思ったので書きます!
第1位

フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~2 (フリーダムノベル)

フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~2 (フリーダムノベル)

2013年のラノベ表紙ベスト第1位はこれ。パステル調で描かれるキャラのじゃれあいと野っ原の風景、奥ゆきの深い画面、そこにくる乗っかってくるキラキラしたタイトル。この小説の美点である、ざっくりした内容であるが故にかえって生まれてくる風通しのいい抜けた空気感や、どってことない日常の輝かしさを完璧に表現してます。見れば見るほどよさを感じます。これはすごい。
第2位
ビスケット・フランケンシュタイン〈完全版〉 (講談社BOX)

ビスケット・フランケンシュタイン〈完全版〉 (講談社BOX)

最近の講談社BOXは例の銀色の謎の質感の箱しばりをやめたので、より多彩なデザインの本が登場してますが、中でもこれがいちばん好きです。toi8のイラストもフォントやデザインもすごくいいんですけど、それが箱という物理の存在感を持つことでキュートさがいや増してます。書籍が物理である甲斐があるというものですね。
第3位
切符はごちゃごちゃした画面が楽しい『のうりん』も毎度毎度いいんですが、とりわけすごいのはこの作品。この、夜闇と女子と『ヴァンパイア・サマータイム』という題字のなかに、目に見えないしなんだかもわからないけど確実に何かがある、この大気の濃密さが。あと女バレの等身高いヒロインがエロいですね。
第4位
魔王が地上では救世主になっている理由

魔王が地上では救世主になっている理由

表紙の女の子がかわいい枠として。書影では帯がないですが帯があるとさらにもうちょっと良いです。ゴス調の服でライダー変身みたいなポーズを取るヒロインのドヤ顔…というかバカ面からもう目が離せません。
第5位
ニンジャスレイヤー ゲイシャ危機一髪! (キョート殺伐都市 # 2)

ニンジャスレイヤー ゲイシャ危機一髪! (キョート殺伐都市 # 2)

ニンジャスレイヤーは第一部の時からどの巻もすごくいいんですが、第二部に入ってからは統一感がないという点で統一感があるという状態になっており、新刊の表紙イラストを待つのがファンの楽しみになっています。なかでもこの巻はセクシーな女子勢重点のショッキングピンクな色使いに「ゲイシャ危機一髪!」という無茶なサブタイが被さりたいへんインパクトがありました。


あとはこれも好きですかねー。

夜の明るさがいいです。というか魔女帽子ってツボで。

ガッチャマンクラウズみた。

ガチャクラみました。序盤は言うほど体温アガんなかったんですけどさすがに評判の7話はとてもよかったです。


まあやっぱベルク・カッツェですよね。台詞回しと声の演技最高。
卑近な現実にも怠惰な日常にも遠大な理想にも囚われることのないカッツェは作中でもっとも正気度の高いキャラになりますよね。極めて正常なセンスを持ち、超常の力を振るい、しかもぶっちぎりでクズい。
やーああいう誰よりも正気だけど驚くほどクズみたいな奴は嫌いになれませんというか大好き。うおー好きだー。
そもそもメシウマとか人類が自らの手で滅びるところが見たいとか、そういうのってある種の零落した正義ですよね。カッツェがガッチャマンのノートを持ってるのもうなずける話です。何を醜いと思うかの感覚は正常なんすよこのひと。少なくとも正常が正常である事を誰が保証してるのかを問うたりはしない。そういうのはカッツェの役割ではなくて、カッツェは価値の惑乱者ではない。
もちろんカッツェって実際やってることは小悪党っつーか、普通に一般人ぶっ殺したりとかしてるので普通に断罪されて滅ぶかもしれませんけど、どっちかというとカッツェ生存ルートが見てみたいっすねー。
その場合はダークナイト路線というか、『武装錬金』のパピヨンが都市伝説として最終回後の街に君臨したように、街に暮らすすべての人にとっての実態を伴わぬ隣人みたいな立場になるんじゃないかと思いますが。カッツェ基本人類のこと好きでしょうし。


カッツェに匹敵する正気度のキャラはもちろん主人公はじめちゃんですねー。職務的な責任感に突き動かされるばかりで視野の狭い清音くんは、立場や思い込みに囚われずに新しいものの見方を提供できる一ノ瀬はじめの正気度の高さに気がつけない。
あとはスマホの電源切っちゃうとかからは、実際的な世間知も武器のひとつにしてるキャラのようにも思われます。世間知は体系だてていない様々な方法論を経験則から積み上げたものであって、方法論のコラージュですね。器の大きさと世間知が武器なあたりスーパー系普通主人公の一種といえますかねこの子。
ただまあ視点を変えてみるのも世間知をいかすのも、当座の難しい問題をするっと解決して見せることはできますけど射程距離は短いですよね。そのへんは無限射程の刃をもつ清音くんやロケット推進の丈さんが担当するのかもしれません。


いまんところありそな決着点は、ガッチャマンの超暴力・立川の地方行政・世間知・GALAXの自助ネットワーク・隣人としてのカッツェが並立して、それぞれに出力方法の異なる正義のコラージュでなんかむずかしい問題をなんかしようみたいなとこに落ち着くのかなーと思います。
ラスボス候補としていちばん厄そうなのは総裁Xかしらん?


そのほかですと、まーとにかくパイマンのスーツがカッコいい。カプルみたいな頭足人フォルムがキュートだしあとタイヤメカいいですよね燃えますよねグリモルディとか。あと丈さんもいいですよね、一番ニンジャっぽくて怖・重・渋いカッコよさがある。挫折ヒーローの死にたみもよし。味わい深くまたセクシーです。挫折からの再点火燃えに期待が高まります。

僕たちはSAOとかと戦わなくても別にいいんだ、という話

先日『天鏡のアルデラミン』読んだんですけどすげー面白かったです。
19世紀くらいの文明レベルの異世界に精霊と魔術をぶっこんだ上で戦争!戦争!戦争!する話で、主人公は軍師タイプ、読むと「諸君私は戦争が好きだ」とか言いたくなる快作でした。


最近は本屋さんでラノベ棚に行ってみますと、アルデラミンに限らず『魔弾の王と戦姫』や『ノーゲーム・ノーライフ』のようなエンタメ異世界FTや『はたらく魔王さま!』みたいな魔王勇者もののラノベがわーっと平積みされてるのが目に入ります。FTは完全に流行った感ありますね。
そうした文庫レーベルにおけるFT作品は、近年続々登場しているWEB小説の書籍化を軸とした新規ソフトカバーレーベルと(そしてそこからさらに既存のソフトカバーレーベルへと)、シームレスにつながって大きなひとつのフィールドを作っているように見えます。
WEB発のソフトカバーレーベルは既存レーベル以上にFTだらけですから。というかまあこっちが震源地なので当たり前ですけれど。
その手の、アルファポリス、フリーダムノベル、エンブレ、MFブックスといったソフトカバーレーベルは、それぞれに毎月何冊かずつを書店のラノベ新刊平台へ送り込んでおり、ラノベ=文庫という図式ももはや崩れていますね。
もちろん文庫レーベルからも、電撃の『魔法科高校の劣等生』やGA文庫の『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』、あるいは新規レーベルのヒーロー文庫における諸作など、WEB小説の書籍化は行われています。


そうしたWEB小説と関連したFTラノベブームを代表する1作といいますと、まあやっぱ『ソードアート・オンライン』なんじゃないでしょうか。WEB発のFTであり、またブームの比較的はしりの存在であること、そしてその圧倒的な売り上げからしてみますと。
ラノベ史を代表する作品といいますと、広範なFTブームとさらに巨大な萌コメブームをそれぞれ代表するスレイヤーズハルヒ、その間の試行錯誤の時期を代表するブギーポップで3大ラノベと勝手に認識しております。スレイヤーズが1990年、ブギーポップが1998年、ハルヒが2003年の刊行で、ハルヒのアニメは2006年ですね。
SAOがスレ・ブギ・ハルヒに並ぶ存在であるかまではなんとも言えないですけど、それに次ぐランクの学園伝記ブーム代表『灼眼のシャナ』には匹敵するのではないでしょうか。


さて、わたくしSAOのことは割と観念的な理由で気に入っておりまして。や、普通に読んでも面白いですけど。

ソードアート・オンライン1アインクラッド (電撃文庫)

ソードアート・オンライン1アインクラッド (電撃文庫)

SAOってどんな作品なのか。面白さの発生源は基本的にはヴァーチャルリアリティにダイブする系のゲームを舞台としての、ゼロ年代的なデスゲーム状況ものと俺TUEE型のエンタメFTのマッシュアップであります。なんですが、もうちょっと突っ込んで考えてみると、SAOって主人公のキリトくんがいろんなゲーム世界を訪れてはそこで事件を解決する話なわけですけど、これって思うに変形の旅FTですよね。
何らかのきわめて高い技能を修得し、一歩踏み込んだ世界の構造への理解をもっている主人公が、様々な土地を訪れては事件を解決するってのは、かつてのスレイヤーズとか魔術士オーフェンとか封仙娘娘追宝録とかといった富士見Fの旅FTを思い出させます。ゲーム文化の影響が強いってのもスレイヤーズ的っすよね。
しかもVR型のゲームを舞台にしたSFで、かつ電撃大賞から出てきている。それは『クリス・クロス』なのでは。高畑京一郎古橋秀之秋山瑞人・三雲岳人・川上稔三枝零一あたりの初期電撃サイバーパンク組からもラインが引ける作品であります。
主人公のキャラ造形的にはオーフェン‐禁書ラインだし、エピソードごとに投入されるヒロインを禁書的にキープし続けて本妻固定型のハーレムになってるし、なんといいますかたいへんなラノベエリートだと思います。


そもそも、WEB発のライトFTってのが、特に「小説家になろう」とかの投稿サイト界隈における、ゲーム文化の影響やあまり作家性を打ち出さず読者に寄り添う姿勢、作者と読者の不可分さ、読者とのネタの共有や読者からの声の届きやすさといったメディアを介した作者・読者間の情報の交流などを見るに付け、これってもしかしてかつてあったものなのではないの?と思うわけです。90年代はじめくらいの時期のパソコンオタ・ゲームオタ向けの雑誌ですとかTRPG界隈ですとかで。当時自分はまだオタ心ついてなかったのでちょっと断言できませんけど。詳しい人プリーズ。
とりあえず最近読んだ中では『この世界がゲームだと俺だけが知っている』が、ゲーム世界に入り込んでしまった主人公が、なんかぷよぷよの子みたいなキャラデザの駆け出し冒険者の面倒を見つつ、ウラ技やバグ技を縦横無尽に駆使した無体なプレースタイルで冒険を続けていく話でして、『フォーチュン・クエスト』や『極道くん漫遊記』が好きだった人には非常にオススメです。

この世界がゲームだと俺だけが知っている 1

この世界がゲームだと俺だけが知っている 1

まあそういうわけでWEB小説ってジャンルに馴染みのない人も別に自分と相容れないものだと思わなくてよいのです。それこそ、『魔術士オーフェン』の新シリーズがソフトカバーで出ててなんか以前にも増して面白い大傑作なんですけど、あれも最初は作者ホームページにちょっとずつ掲載してはファンがTwitterや2ch該当スレで阿鼻叫喚するという連載形態でしたからね。


相容れないものだと思わなくてもいい、という話ですと最近『カゲロウデイズ』読み始めたんですがこれもそうだと思います。

カゲロウデイズ -in a daze- (KCG文庫)

カゲロウデイズ -in a daze- (KCG文庫)

ボカロ小説ってやつですね。カゲロウプロジェクトと総称される一連の創作物で、作者のひとが同一世界観の複数楽曲をボーカロイドで投稿して、絵がかける人がそれ用のミュージックビデオを作って、これがウケたので作品世界をもっと詳細に描写し描かれていないところを補完する小説を書いたらこれが中高生に爆売れという。
もともとは僕もなんかうろんなものを見る目でカゲロウデイズが売れてるらしいというニュースを眺めていたんですが、最近うっかり「夕景イエスタデイ」のMVを見てしまいまして、ここに登場する榎本貴音がヤバい。本年度ベスト可愛い。

恋の歌ではありますけどどっちかって言うとコミュニケーションが苦手な子の思春期のなんかの歌なのがよいです。可愛い。目つき悪いのも、清水エスパルスみたいな変な髪型も、鉄雄‐我愛羅系のデコも、肩幅に足を開いて立ってる姿勢の良さも、襟が立ってんのも、スパッツ穿いてるのも、胸が絶壁なのも、細身で肩幅が広くて肩関節の可動域広そうな骨格なのもぜんぶ魅力的じゃないですかー。特に骨格。
でまあ、それをきっかけにカゲロウプロジェクトのMVをYouTubeでひと通り見て回ったんですけどまーこれがものすごい思春期のある種の昏いロマンチックなあれこれっぷりでヤバい。死にループの曲「カゲロウデイズ」、箱庭世界の終焉の曲「ヘッドフォンアクター」、嘘だけど系男子の曲「夜咄ディセイブ」、死んじゃった子の話「アヤノの幸福理論」で思春期四天王だと思いました。なお好きな曲は「夕景イエスタデイ」と「メカクシコード」。
で、結局これはなんなのかなと考え込んだんですが、表面的には電子生命みたいなサイバーなネタや『エア・ギア』みたいなお洒落ストリートギャングや『フルーツバスケット』みたいな異能者の救済テーマみたいな要素が散りばめられてるんですけど、わたくし思いますにこれって本質的には『ブギーポップは笑わない』ですよ。
高品質・高純度の思春期のロマンを、時系列シャッフルしたエピソード群として描くことで多感な中・高生の脳を揺さぶる。そういう面白さの構造においてカゲプロとブギーポップは共通していて、いまカゲプロにはまっているガキどもはブギーポップとかを読んでたあの頃の僕らなんです。中・高生の僕らがはまっていたものに奴らもはまっているに過ぎないのです。10年や15年で人類はそこまで変わったりせんのですよ。
なお小説の方も結構面白いと思いました。


さて、そんなふうにWEB発のラノベの読者との距離の近さを意識していると、比較して最近の萌えラノベ作家のプロフェッショナルぶりもそれはそれで凄い価値があることだなあと思えます。
僕は友達が少ない』ですとか、最新9巻がめちゃくちゃ良かったですけど、とにかく情報をスリムにした文章、巨大フォントや変形段組といった表現の工夫、日常が様相を変えながら続いていくありさま、作者の平坂読の積んだ功夫には頭が下がります。プロフェッショナルなライトノベル作家としての研鑽と矜持を感じる作品です。

僕は友達が少ない (MF文庫J)

僕は友達が少ない (MF文庫J)

さらに注目なのが『のうりん』。表現面でも文章とイラストの連携が他に抜きん出て良く取れており、作者・絵師・編集の三位一体の協力関係の強力さが伺われますし、そもそも作者の実体験とか本で読んで調べたとかでなく、農業高校に年単位で出入りして取材を重ねて作品を作っているという点で企画としてレベルが高いですよね。ラノベって読者との近さが売りになる分そういうのって非常に少ないので、『のうりん』があたってフォロワーが出てきてくれたらとても嬉しいです。
のうりん (GA文庫)

のうりん (GA文庫)

あ、もちろん『のうりん』が面白いのはきっちり取材しただけじゃなくて、きっちり取材したものをきっちり作者自身で叩き壊してるからでもあります。このへんもプロフェッショナルな仕事であるなーと思えるところですねー。


まあそんなわけでFTは流行ってますけど萌えコメも未だ強力でありますし、涼宮ハルヒの人気がアニメハルヒのEDダンスを踊ってYOUTUBEにアップするみたいな形で出現したことなんかを思うと現段階だとSAOの時代というよりはハルヒ‐SAOの時代なのかなーと思います。だいたい萌えムーブメント自体WEB上での反響効果によって成立してる気もしますし。
今後『僕は友達が少ない』や『やはり俺の青春ラブコメは間違っている。』(←八幡が可愛い)あたりが完結すると、あるいは本格的にWEBとFTの時代になるのかもしれませんが、なんにせよそいつらが理解不能のなんかではないということだけ憶えておけば無意味なイライラを感じたり雑なdisを吐いたりしなくてすむと思いますんでこのような記事を書いておくものであります。あ、もちろん雑でないdisはどんどん吐くといいとおもいます。以上でした。