ラノベから見る新ジャンルYAまとめ

08年のライトノベル

「各種ノベルスや来年創刊のメディアワークス文庫による、年齢層高めのアプローチ」
「児童書側に読者のすそ野を広げる、角川つばさ文庫のアプローチ」
など、新規開拓路線の動向について注目したいと思います。

2008年ライトノベル十大ニュース「決定版」 - 平和の温故知新@はてな
http://d.hatena.ne.jp/kim-peace/20081231/p2


わー、超同意。
09年はひさびさにラノベってカテゴリーがぶっ壊れる年になるんじゃね?とわたくし若干wktkしております。
咋年末には↓
春に続き、秋冬のライトノベル編集者の異動・更迭が激しすぎる件 - さて次の企画は
http://d.hatena.ne.jp/otokinoki/20081208/1228737015
というライトノベルの売り上げ低下の報があって話題をさらいました。確かに06年から始まったHJ文庫、GA文庫、ガガガ・ルルル、一迅社文庫メガミ文庫などなど各社の新レーベルラッシュで、ひと月に刊行される作品数がむやみに激増してましたから、さもありなんと思えます。
そんな事態の結果、従来のラノベにおいては周辺的だった分野が存在感を増すってことは十分考えられるでしょう。


ラノベの高年齢読者層を狙う取り組みは、FTブーム後期に「ファンタジーの森」や「角川スニーカーブックス」が立ち上がったと思えばもう撃沈するなど、これまで成功してきませんでした。
しかし現在は状況がちょっと違うかもしれません。
咋年に話題をさらった、桜庭一樹直木賞受賞や有川浩図書館戦争シリーズの活躍と言ったラノベ作家の「越境」は、ラノベ読者層の高年齢化とさらなるシェア拡大の可能性を示すものといえるでしょう。
また昨年はスレイヤーズの再アニメ化や古橋秀之の幻の傑作『ソリッド・ファイター』の販売、ダブルブリッドの完結や封仙娘々の完結(予定)、秋山瑞人スレの100スレ突破、魔術士オーフェン第3部蓬莱学園の革命!2巻のWEB上での発表など、高年齢読者層の強い存在感を感じさせるニュースがありました。


08年にはノベルス(新書版の小説レーベルの総称で、架空戦記や時代・伝奇小説やミステリーなどの大人向けのジャンル小説を取り扱っており、中にはラノベ的な作品もあるけど、ラインナップの全てがラノベというレーベルはまだ少ないです)と言う形態でありつつも、ラノベよりの作品・作家をそろえている新レーベルとして、「幻狼ファンタジアノベルスhttp://www.gentosha-comics.net/genrou/と、「朝日ノベルス」http://publications.asahi.com/novels/がスタートしました。
特に幻狼ファンタジアの妹尾ゆふ子『翼の帰る処』は、07年に完結した須賀しのぶ流血女神伝シリーズの後をついで“今いちばん面白いファンタジー”の座に着くかも知らんと俺が勝手に期待しています。

翼の帰る処 上 (幻狼ファンタジアノベルス S 1-1)

翼の帰る処 上 (幻狼ファンタジアノベルス S 1-1)


さらに09年冬には大人向け電撃文庫であるメディアワークス文庫http://asciimw.jp/award/taisyo/mwb.phpの創刊が控えています。
「創刊以来15年の歳月をかけて築いてきた 『電撃文庫』 の力を結集」するらしいです。いまなおラノベレーベルの王者として君臨する電撃が本気出して作家・作品を送り込んでくるのであれば、こんどこそ大人向けラノベレーベルが軌道に乗るかもわかりません。震えて待ちましょう。ていうかMW文庫でドラグネット・ミラージュ再刊するといいのにな!マジでな!

新ジャンル“YA”


さてもう一方、ライトノベルの低年齢層向けの展開です。
頭数で言うとラノベオタよりも中高生の方が人数が多いと思いますので、この層のニーズがラノベの未来を決定していくと言ってしまってもよいと思います。

ラノベの外に目を向けて中高生及びさらにもうちょっと下の世代向けのエンタメをチェックしてみると、そこにラノベにとは似て非なるけど相当近い、同じくらいおおきくて曖昧なジャンルが広がっていることに気付くでしょう。“YA”ですよ!


大雑把に言うとYAとは、キャラ小説化の進行著しいエンタメ系児童文学と、読者の共感を呼ぶような同世代感覚のある思春期・青春小説とが合流しながら、ここ5年くらいの間に出来上がってきたカテゴリーで、正直YAという呼び方にみんな賛成してくれるのかどうかもちょっとわからんのですけど、しかしとにかくそのようなカテゴリーが存在していることは確かです。


なおYAとはヤングアダルトの略であり、これは英語圏において、児童文学ともその他の一般的な大人向けの小説とも違う、十代向けの小説をあらわす言葉です。しかし日本では“アダルト”と言う単語に悪いイメージしかないため、頭文字をとってYAと呼ばれることが増えてきているようです。
90年代末から00年代はじめごろに、ライトノベルを含む十代向けの小説をヤングアダルトと呼んでいた時期がありましたが、YAはそれとはまたちょっと違う枠組みです。ヤングアダルトは当時ちょっと流行っていた思春期小説を中心にその他のライトノベル“も”含むというよな広くて曖昧な概念だったかと思います。まあそっちのほうが本来のヤングアダルトの意味に近いのでしょうが、いっぽうのYAは現在のライトノベルと同じく、眼に見える具体的なYAレーベルの存在を前提としています。


では次項で主要なYAレーベルをざっと並べてみましょう!

YAレーベルまとめ

http://shop.kodansha.jp/bc/aoitori/index_main.html
児童文学の老舗である青い鳥文庫も、小学校高学年以上向けの作品はYAの範疇であると思います(←自分の感覚ですが)。
ラノベ的な表紙絵の作品も多くありますが、名作の文庫落ちでない新作に限ればマンガ絵であることがほとんどです。また上橋菜穂子の『獣の奏者』ように、NHKでアニメ化、月刊シリウスでマンガ化といったメディアミックス展開をしている作品もあります。

新装版 天井うらのふしぎな友だち (講談社青い鳥文庫)

新装版 天井うらのふしぎな友だち (講談社青い鳥文庫)

獣の奏者(1) (講談社青い鳥文庫)

獣の奏者(1) (講談社青い鳥文庫)


http://www.4bunko.com/
フォア文庫青い鳥文庫と同じく、老舗でしかもメインターゲットが小学生ですが、キャラ小説化の進行はいっそう著しく思われます。
作品の傾向としては、女の子の現在とちょっと未来におけるロールモデルを提示するような話と、読者が共感しやすいような女の子主人公がファンタジー度高めな世界で活躍する話が多いみたいですね。休日朝の女子向けアニメのよな感じです。

ラブ偏差値 もしかして初恋!? (フォア文庫)

ラブ偏差値 もしかして初恋!? (フォア文庫)

妖界ナビ・ルナ (1) 解かれた封印 (フォア文庫)

妖界ナビ・ルナ (1) 解かれた封印 (フォア文庫)

少女海賊ユーリ なぞの時光石 (フォア文庫)

少女海賊ユーリ なぞの時光石 (フォア文庫)


http://shop.kodansha.jp/bc/books/ya-enter/
対象年齢がぐっと上がって、おもに中高生向け。
都会を舞台に、高スペックな少年少女が活躍したり思春期したりする話が多いようです。

NO.6〔ナンバーシックス〕#1 (YA! ENTERTAINMENT)

NO.6〔ナンバーシックス〕#1 (YA! ENTERTAINMENT)


http://shop.kodansha.jp/bc/books/topics/mystery_land/
中高生向け。凝ったデザインの穴の空いた箱に入っているのが面白いです。作品はミステリーでホラーで冒険で、“子供時代にのぞき見た大人の小説”なんてなイメージの作品が多いように思われます。

ラインの虜囚 (ミステリーランド)

ラインの虜囚 (ミステリーランド)


http://www.rironsha.co.jp/Mystery_YA/
中高生向け。「ミステリー」と関しているだけあってみんなミステリーで、かつ思春期小説系。あとミステリーだからかホラー度の高い作品も散見されるようです。

雨の恐竜 (ミステリーYA!)

雨の恐竜 (ミステリーYA!)

ブランク―空白に棲むもの (ミステリーYA!)

ブランク―空白に棲むもの (ミステリーYA!)


http://www.iwasakishoten.co.jp/products/series_338_1.html
中学生あたりがメインターゲットか。現代伝奇的な話が多いようです。

S力人情商店街 (1) (YA!フロンティア1)

S力人情商店街 (1) (YA!フロンティア1)


  • カラフル文庫 ジャイブ

http://hint.jive-ltd.co.jp/
小学生向け。『IQ探偵』シリーズは装丁がカッコいいですね。

IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。 (カラフル文庫)

IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。 (カラフル文庫)


http://pureful.jive-ltd.co.jp/
対象年齢はかなり高そう。エンタメ度やジャンル小説度が低めの、大人の女性向けの小説に近い雰囲気なのが割りと多いですね。文庫本サイズで、児童書の棚ではなく一般の文庫の棚や少女小説の棚にまぎれているのでちょっとだけ探しづらいです。

卵と小麦粉それからマドレーヌ (ピュアフル文庫)

卵と小麦粉それからマドレーヌ (ピュアフル文庫)


http://www.poplar.co.jp/pocket/
小学生向け。『フォーチュン・クエスト』の新装版を出してます。
というか僕前々から思ってるんですけど、中村うさぎ極道くん漫遊記』を児童書にしません?ポプラポケット文庫でなくてもいいので。絶対向いてると思うんですけど。

あとポプラ社だと、レーベルってほど統一されたスタイルを持ってないものの、青春エンタメの「TEENS’ ENTERTAINMENT」や思春期小説が多目の「teens’ best selections」といった中高生向けのシリーズも面白そうな作品が多いです。
TEENS’ ENTERTAINMENT
http://www.poplar.co.jp/shop/kensaku.php?junban=new&thumbnail_display=on&seriescode=4052&...
TEENS' BEST SELECTIONS
http://www.poplar.co.jp/shop/kensaku.php?junban=new&thumbnail_display=on&seriescode=8001&...
ぎぶそん (teens’best selections)

ぎぶそん (teens’best selections)


http://www.kodomonohon.jp/goods/series/nccsev000000ey5s.php
小学校高学年向けかな?もうちょっと上も含むかも。富士見Fの「トリシア先生」シリーズの前日譚シリーズがやってたり、日本ファンタジーノベル大賞出身の沢村凛が作品を書いてたりします。

千年の時をこえて (エンタティーン倶楽部)

千年の時をこえて (エンタティーン倶楽部)


http://www.kadokawa.co.jp/gin-no-saji/
YAレーベルへの進出の遅れていた角川が08年にスタートさせたレーベル。ハードカバーの単行本です。装丁・ラインナップ、気合入ってます。同時代性とかじゃなく、それ自体で完結する物語としての面白さを指向してる様子。まだ4冊しか出てない上みんな面白そうなので書影4つとも載せてみますね。


http://www.tsubasabunko.jp/
09年スタート予定の角川の次の1手。こっちはたぶん新書サイズ。スレイヤーズを別作者でやるとか。


長いな!いいからとりあえず1冊薦めろよ


YAのうちでも思春期小説的な話は紹介せんでもいいかなーと思います。
ちょっと前置きが長くなりますが、90年代末から00年代前半に、ラノベで思春期小説としてのヤングアダルトが流行ったことがありました。あさのあつこ『バッテリー』や森絵都『カラフル』のヒットと同期して*1、『ブギーポップ』や『キノ』が登場して当時のライトノベル(まだライトノベルと言う言葉は定着していませんでしたけど)の代表的ヒット作になり、ラノベの学園ものシフトのきっかけになったりしました。
その後ラノベは、エロゲからゆるキャラまでのキャラクター消費ブームに乗っかっていく方向に舵を切りまして、やがてメディアミックスの原作としてのキャラクター小説がラノベの本流になってゆきましたが、しかし傍流に追いやられたとはいえ思春期小説としてのラノベの遺伝子もいまなお多くの作品に受け継がれています。最近だと、ええと、田中ロミオ『AURA』とか。


そのへんを踏まえ、今までのラノベにないタイプの話で1冊薦めるとしたらこちら。

なんであたしが編集長!?―ハピ☆スタ編集部 (フォア文庫)

なんであたしが編集長!?―ハピ☆スタ編集部 (フォア文庫)

レポーターなんてムリですぅ!―ハピ☆スタ編集部 (フォア文庫)

レポーターなんてムリですぅ!―ハピ☆スタ編集部 (フォア文庫)

1冊って言うか1シリーズ既刊2冊なんですが。
内容はスローライフ指向の小5女子が姉ちゃんの陰謀で小中学生向けファッション誌のこども編集部に放り込まれて(お姉ちゃんたすけてよう、うわーん)、と思う話です。高密度&ハイテンションで序盤からにまにましっぱなしなんですけど、同時にイケイケの姉とのんびりな妹だとか大人の編集者と子供編集部員達といった立場の違いに伴ったそれぞれの視野の狭さの描き方が実にゆきとどいていて、テーマ的にもスリリングだし作者の技量の高さもうかがえます。
自分もこの辺のジャンルは初心者なので他の作品と比較してベストとは断言できませんが、ラノベにないタイプの話でしかもメチャ面白いことは作品単体で判断できます。これは超オススメ
購入するのは若干羞恥プレーかも知れませんが、まあプリキュアの映画を見に行くよりは……。

09年のライトノベル


今年はYAと言うジャンルの存在と、ラノベとYAとの交流や読者の奪い合いが、顕在化していく年になるかと思います。
読者層や売れ線に何らかの変化は起きれば、同時に今あるライトノベルのイメージや枠組みも、大きく変化していくでしょう。BLを除いた少女小説と、高年齢層をノベルス方向に切り離して低年齢化した男子向けラノベレーベルが丸ごとYA扱いされ、萌エロがニッチとして排斥されるなーんて日が来たりなどするやもわかりませんし、こないかもしれません。あまり完全に1色に染まっても利益が出しづらいでしょうですから、そこは独自色を出すべくラインナップと装丁の工夫が求められるんでしょうね。
なんにせよ未来は波乱万丈そうですし、ある程度カオスってた方が世の中面白いと思います。来年もこの界隈は話題に事欠かないんじゃないですかね!

*1:ついでに言うとこの時期に積極的に海外ヤングアダルトを紹介してカテゴリーの形成やその後に影響を与えた人物として翻訳家金原瑞人がいます。古橋秀之秋山瑞人の小説の師匠に当たる人だそうで、「あなたは一体何度ーーー我々の前に立ちはだかってくるというのだ!!金原瑞人!!!」と思わざるを得ません